会誌『考古学研究』

要旨　古墳時代の短茎式・無茎式鏃に用いられる鏃と矢柄のジョイントである根挟みは，鏃を矢柄から容易に分離する機能を持つ。つまり，古墳時代の矢には鏃と矢柄が容易に着脱可能な分離式と，鏃が矢柄にしっかり連結されている固定式の二者が存在する。分離式の矢鏃には，他にもソケット状の部位を持つものや，別材の筒状部材を介在させるものが該当する。分離式の矢鏃には矢柄を装着しない状態で流通し，鏃のみで副葬されるものがある。武器としての完成形態ではない鏃のみでの流通は，中期中葉にピークを迎えたのち減退するが，東日本では後期にも継続するため，西日本と東日本では矢鏃の授受の社会的な意義が異なった可能性がある。

キーワード　古墳時代，矢，流通形態

要旨　古墳時代後・終末期の喪葬観念について，相模・南武蔵地域の横穴墓を中心に，埋葬方法，線刻画，土器の使用，墓前域石積と四項に分けて検討した。
　埋葬のうち改葬は，いずれかの地で一次葬を経て，二次葬として玄室内に埋葬されたとし，改葬や伸展葬という違う方法によっても，骨は捨てられることなく大切に扱われると考えた。線刻画の武器や山形の意匠からは玄室内が辟邪空間とみなされ，抽象的な情景の一部は冥界への道程を記した。この地域では，そうした観念の具象化という表現が卓越していた。
　７世紀中葉からの須恵器甕などの破砕行為は，衆人に向けた儀礼終了の合図で，被葬者との決別を表すと解釈した。墓前域は儀礼を参列者に見せる舞台装置で，墓前域石積は横穴墓被葬者の社会的な役割が変化したことにより，古墳と同じ儀礼を行う必然性から生じた。

キーワード　改葬，線刻画，破砕行為，墓前域石積，喪葬儀礼

要旨　東北地方の宮城県域・山形県域より北にはアイヌ語で解釈できる地名がある。そこにアイヌ語話者が暮らしていた時期があったことを示す。その人々を奈良・平安時代の文献に記された蝦夷だと考えるのが通説である。だが最近は，様々な物質文化を資料として，文献に記されるような蝦夷はいなかったという考古学的研究も提出されている。本稿では，①それらの地名が存在する理由，②命名の時期，③現在に伝わる形で定着した時期，④命名者，⑤定着させた者について考察をおこない，どちらの説が実態に即しているかを確かめた。資料は，アイヌ語系地名の分布図，北海道と東北地方の両地域に分布した続縄文土器である。これらの分布範囲が最も似るからである。土器の器種組成，器形，文様構成を比較し，類似点が生まれる理由や人々の交流の形態を考察した。その結果，東北地方のアイヌ語系地名は，後北Ｃ2・Ｄ式?北大Ⅰ式の続縄文土器使用者の言葉であり，そして，現在に残るように定着させたのは，飛鳥時代以降にそこに移住したやまと言葉話者であったと考えた。

キーワード　東北地方，アイヌ語系地名，続縄文土器，飛鳥?平安時代，移住