<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第60巻 第4号(通巻240号)
2014年3月
展 望
- 東日本大震災の復興事業に伴う埋蔵文化財保護の取り組み
- 渡辺伸行
- 日本考古学の国際化 なぜ必要か?/何が必要か?
- 瀬口眞司・細谷 葵・中村 大・渋谷綾子
考古学研究会第60回総会講演要旨
- 世界から見た日本考古学—中国とカナダからのまなざし—
- 秦小麗
考古学研究会第60回総会研究集会趣旨説明・報告要旨
- 世界の中の日本考古学
- 石村 智・新納 泉
- 世界の中の縄文文化—国際化への布石—
- 瀬口眞司
- 世界の中の屋用時代—弥生文化の特質—
- 長友朋子
- 世界の中の古墳時代研究—比較考古学の観点から—
- 辻田淳一郎
- 世界の中の日本人考古学者—東南アジアのフィールドから—
- 丸井雅子
論 文
- 北海道恵庭市カリンバ遺跡の大型合葬墓と埋葬様式—「多数合葬墓」をめぐる青野論文への回答—
- 上屋真一・木村英明
要旨 北海道恵庭市カリンバ遺跡で発見された縄文時代後期末葉の多数遺体合葬墓について,同時期に一括埋葬されたのではなく,時間差をもって埋葬され,最後の遺体の埋葬が終わった後に土砂が埋め戻されたという見解が発表されている。本稿では,覆土の堆積状況や遺物の出土状況から,どのような手順をもって埋葬がおこなわれたのかを再検討する ここで問題とする合葬墓は,墓壙の底面が黄褐色のEn-a降下軽石層を深く掘り込んで作られており,さらに下位の青灰色砂礫層にまで及ぶ例もある。遺体が安置されベンガラが撒布された後,掘削時の土砂がていねいに埋め戻されており,遺体を含む層,ベンガラ層,あるいはベンガラを含む粘土層とその上を覆う堆積層との間に,時間の経過を示す黒色土などの自然堆積層は認められない。また,おびただしい数の櫛や,帯飾り,腕輪,頭・額飾りなど多様な漆製品,玉類,鮫歯などの副葬品や着装品のそれぞれの出土状況や配置の観察からも,墓壙が埋め戻されないままで遺体が置かれていたという状況は認めにくい。以上の結果,これらの多数遺体は,時間を隔てずに一括埋葬されたものと考えられる。 なお,縄文時代前期~中期の八雲町栄浜1遺跡や,縄文時代後期の恵庭市柏木B遺跡の事例の分析から,北海道の縄文時代を通して,合葬墓での時間差をもった埋葬は存在しないことを予察した。
キーワード カリンバ遺跡,縄文時代後期後葉,大型合葬墓,漆塗り製品,同時期埋葬
- 中国地方における造瓦工人集団の展開—いわゆる水切り瓦の事例—
- 小林新平
要旨 備後北部を中心に広がるいわゆる水切り瓦を,瓦当文様と製作技法の観点から分析した。まず,実見中に確認された製作痕跡をもとに,製作工程の復元を行う。次に,三角状突起発生の要因とその変化の過程について製作技法的観点から検討した。当初は成形痕として発生し,その後成形行為が慣例化するとともに意匠を意識するようになる過程が明らかとなった。最後に,備中・備後・出雲・安芸といった各国から出土するいわゆる水切り瓦の様相を比較し,工人集団の動向と関連づけてその展開を跡づけた。その結果,いわゆる水切り瓦を出土する地域の中でもとりわけ備後北部と出雲国との間になんらかの関係性があることが確認された。
キーワード 飛鳥時代,中国地方,いわゆる水切り瓦,製作技法,造瓦集団
研究ノート
- 種実由来土器圧痕の解釈について
- 遠藤英子
要旨 レプリカ法で種実同定を行ったデータを用いて,圧痕の検出部位や形態,同定種から土器圧痕の形成過程を検討した。その結果,弥生土器に多出する底部外面のイネ圧痕については,それ以外の部位に形成される圧痕と異なる意図的な圧痕形成を推定した。したがって,土器系統を跨いでの圧痕データの比較には注意が必要である。底部外面への圧痕の集中は朝鮮無文土器にも看取され,その技法が伝播したとされる夜臼Ⅰ式土器にも底部外面イネ圧痕が確認できた。また東日本の弥生土器にも同様の圧痕が観察されることから,弥生土器底部外面イネ圧痕の検出は,各地に伝播した弥生土器製作技術情報の伝播・拡散の在り方を示す一つの指標となるのではないかと予測した。
キーワード 土器圧痕形成過程,レプリカ法,栽培種実,農耕開始期,弥生土器製作技法
- 6世紀前半の環境変動を考える
- 新納 泉
要旨 6世紀前半に世界的な規模で気候の悪化があったことが,さまざまな分野で認識されてきている。これまで「AD536イベント」などと呼ばれ,東ローマ帝国を衰退に追い込みイスラムの台頭を促すなど歴史を二分するような重大な影響を与えたという主張がある一方で,データの信頼性や悪化の原因についての見解が対立するなど,評価が分かれてきた。しかし,年輪年代の研究や,グリーンランドなどの氷床コアの解析から,この2,000年で最も厳しい短期的な気候の悪化であったという理解が定着してきている。日本列島でも,この時期の考古資料には前後の時期に比べて特異な点が多く,文献にも王統の混乱や内乱の記事がみられる。『日本書紀』宣化元年(536年)には,対外的な援助を思わせる詔が記されており,こうした気候の悪化に対応したものと考えることができるかもしれない。アイルランドやスウェーデンでも,考古資料などにこうした気候の悪化の影響が認められており,日本列島でも今後,このようなグローバルな短期的環境変動が与えた影響について,積極的な検討を行っていくことが必要になってくると思われる。
キーワード AD536イベント,環境変動,年輪年代,氷床コア,火山噴火
- マヤ南部周縁地域における戦いの痕跡—チャルチュアパ遺跡を中心に—
- 市川 彰
要旨 本稿では,マヤ南部周縁地域における戦いについて,エルサルバドル共和国西部に位置するチャルチュアパ遺跡の考古資料に基づき論じた。少なくとも先古典期後期以降,戦いの痕跡がうかがえ,その戦いの実態は時期により異なる。先古典期後期には社会内部の異なる集団同士の戦いが,先古典期終末期には外部要素を積極的に受容しようとする在地集団の台頭,古典期後期後半から後古典期後期にかけては異質な外部集団との衝突が存在していたものと考えられる。こうした周縁地域社会のせめぎ合いの痕跡は,周縁社会が中心的な社会や地域に対して静的な存在ではなく,個々に主体性を持つ動的な存在であったことを示唆する。
キーワード マヤ文明,マヤ南部地域,周縁,戦争,チャルチュアパ
- 初期国家論研究の成果と現在—初期国家プロジェクトを中心とした研究動向について—
- 須藤智恵美
要旨 初期国家は,国家形成過程を考える概念の1つであり,初期国家論は,初期国家プロジェクトの約30年の理論研究によって体系化されてきた理論である。日本においては,都出比呂志の初期国家論の提唱以降,古墳時代を指すタームとして理解されている。しかし,前者と比較して後者は,タームとしての役割が重要視されており,限定された意味合いで用いられている。初期国家論を人類学的な国家形成過程観に基づいて議論するならば,古墳時代のみを対象として終始するよりも,政治組織の展開に広げて位置づけを追求していくことが有効である。
キーワード要旨 初期国家,国家形成過程,古墳時代,社会政治組織,比較研究
新刊紹介
- 阿部浩一・福島大学うつくしまふくしま未来支援センター編『ふくしま再生と歴史・文化遺産』
ココが聞きたいッ!考古学の最前線
- 特別編:考古学を学ぶ学生の声(関西編)
- 朝井琢也・上月克己・広瀬侑紀・福島 栞 (聞き手:石村 智)
日本の遺跡・世界の遺跡
- 石川県能美市 能美古墳群 和田山23号墳
- 能美市教育委員会
- ペルー共和国ネペーニャ谷のワカ・パルティーダ遺跡
- 芝田幸一郎
会員つうしん・委員会つうしん