<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第61巻 第3号(通巻243号)
2014年12月
お知らせ
展 望
- さあ議論を始めよう―考古学研究会第60回総会・研究集会「学生討論会」の報告と展望―
- 上月克己・五木田まきは・北川祐輔・山下大輝・石村 智
- アジア・太平洋地域水中文化遺産会議と共有海事遺産の概念について
- 木村 淳
- 北米理論考古学会2014年大会参加記
- 光本 順
考古学研究会第60回研究集会報告(下)
- 世界の中の古墳時代研究―比較考古学の観点から―
- 辻田淳一郎
要旨
本稿では,日本列島の古墳時代社会および日本における古墳時代研究のあり方を相対化するために,社会進化と国家形成という観点から比較考古学的検討の方向性の提示を試みた。まず,日本列島の古代国家形成を大きくⅠ~Ⅲ段階として捉え,広域的威信財システムの展開から実質的な政治支配へと原理転換していく過程として理解した。次に古墳時代における「都市の不在」の問題について,領域国家・都市国家という視点から検討し,特に6世紀のⅡ段階以降に領域国家的な特徴が顕著になることを論じた。最後に,文明周辺域における二次的国家形成と文化変容という観点から,ブリテン島の鉄器時代からローマ時代への転換過程との比較を行った。その結果,「ローマ化」に伴う在地社会の行政単位への再編・間接支配といった列島古代との共通性がみられる一方で,ブリテン島では鉄器時代に列島的なモニュメント造営がみられず,その後ハードウェアを中心とする文化変容が短期間に急速に行われたといった差異を確認した。以上のような「別の」文化との直接的な比較を通じて,古墳時代社会を人類史的に相対化する方向性を論じた。
キーワード 古墳時代,比較考古学,相対化,人類史,国家形成
- 世界の中の日本人考古学者―東南アジアのフィールドから―
- 丸井雅子
要旨
要旨 世界の中の日本考古学について,東南アジアというフィールドを事例として考察することが本稿に与えられた課題である。日本人考古学者という実践者そのものに焦点を当て,帰属する社会の歴史的環境及び対峙する社会環境への問い直しを通じ,世界の中の日本考古学を理解する糸口を提示することを目指す。この問いかけの背景には,東南アジアにおいては自らが日本人考古学者であることを自覚せざるをえない場面が少なくない,という長年積み重ねられてきた経験がある。本稿をまとめるにあたり,こうした日本人としての意識が単に個性に由来するのではなく「日本人考古学者」として相対化できるという仮説を立て,日本と東南アジアの歴史的関係を振り返り且つその中で日本人考古学者がどのように関わりあってきたのかを検証した。その検証の過程で,両者(東南アジア地域と日本)が経験した歴史的環境を総括し,特に第二次世界大戦後の現場(フィールドとしての東南アジア)における日本人としての葛藤と同時に考古学者としての研究対象への憧憬が併存していたことを確認した。さらに現代社会が作り上げた遺跡をめぐる国際文化協力実践の場という新たな潮流に注目し,利害関係者の一構成員である日本人考古学者に言及した。以上の議論を経て,東南アジアで活動する日本人考古学者には戦争という歴史的環境に加え,特に21世紀に入ってからは援助国パートナーという社会環境が付与されていることを明らかにした。
キーワード 東南アジア,歴史的環境,現代の社会環境,国際文化協力,社会還元
総括討議
論 文
- 世界が変わるとき―弥生時代中期の北部九州を素材として―
- 溝口孝司
要旨
小論は考古学において世界の変化はいかに分析され得るかを論じた。<世界>の変化は個々人の<世界>の変容としてもたらされる。個々人にとっての<世界>とは個々人が参画する可能性のあるコミュニケーションの総体であり,個々人の<世界>がつづくためにはコミュニケーションの再生産が保証されなければならない。その再生産が困難化したとき克服を志向する試行錯誤がおこなわれる。その結果は一定の新たなコミュニケーション接続のためのテクノロジーとして定式化される。このようにして<世界>は変わってきた。そのような変化の物的媒介とその痕跡を考古資料にいかに見いだし読み解くかを弥生時代中期北部九州の事例をケースとして論じた。
キーワード 長門西部,弥生時代中期初頭,内折口縁土器,城ノ越式土器,海面上昇
研究ノート
- 縄文時代中期における土器使用の研究―住居内埋設土器を中心として―
- 本橋恵美子
要旨
住居内埋設土器である,炉体土器・炉内埋設土器・住居内埋甕について,土器の大きさや部位,土器内面の黒変から使用痕跡の分析を行った。その結果,黒変については大きな差異は認められず,炉体土器と埋甕とでは大きさによる違いはみられない。住居内埋甕は煮沸具としての土器が転用された可能性が高い。土器の部位や大きさについては,炉内埋設土器や埋甕に底部をもつものが多くなるのが,加曽利E3新式期であり,ここに大きな画期があることが明らかとなった。また,加曽利E3新式期には炉内埋設土器で被熱していない土器がみられることから集落での住居の在り方を考える上で重要である。中期末葉の環状集落消滅の現象と何らかの関係がある可能性がある。
キーワード 縄文時代中期,住居内埋設土器,大きさ,部位,黒変
- 先古典期マヤ文明の遠距離交換と石器製作
―グアテマラ共和国セイバル遺跡の先古典期中期の打製石器―
- 青山和夫
要旨
本論は,グアテマラのセイバル遺跡の打製石器の研究を通して,先古典期マヤ文明の遠距離交換と石器製作について実証的に検証する。先古典期中期前半(前1000~前700年)のセイバルでは,黒曜石製石刃核の遠距離交換と石刃の生産を可能にする複雑社会が発達していたと考えられ,先古典期中期後半(前700~前400年)に黒曜石の遠距離交換が飛躍的に増大した。地元産チャート製石器では,不定形石器の剥片が主流であり続けたが,チャート製の石刃および武器の石槍(両面調整尖頭器)などの両面調整石器が先古典期中期前半に製作され始めた。
キーワード 遠距離交換,石器製作,打製石器,先古典期マヤ文明
書 評
- 工藤雄一郎/国立歴史民俗博物館(編)『ここまでわかった!縄文人の植物利用』
- 細谷 葵
- 角道亮介 著『西周王朝とその青銅器』
- 内田純子
考古フォーカス
- 鳥取県鳥取市 高住井手添遺跡の発掘調査
- 北 浩明
- アメリカ合衆国コロラド州 メサ=ヴェルデ国立公園
- 荒川史康・佐々木憲一
例会レポート
会員つうしん