目次
第68巻 第1号(通巻269号)
2021年6月
展望
- 高輪築堤の保存について
- 常任委員会
- 【連載】東日本大震災から10年 私たちは変わったのか⑴
- 東日本大震災を振り返り未来につなぐ
- 禰冝田佳男
- 震災後10年の福島県の文化財とこれから
- 菊地芳朗
- 東日本大震災・原子力発電所事故からの10年―福島県富岡町から―
- 三瓶秀文
- 東日本大震災・福島県被災地の文化財担当者が感じたこと
- 川田 強
- 阪神・淡路大震災から東日本大震災そして未来へ―現代の社会と遺跡の役割―
- 山本 誠
- 沖縄で思うこと
- 中山 晋
- 【連載】模擬古墳―遺跡・遺物の保存と活用を考えるための実験的取り組み―
- 近畿地区文化財専門職説明会のオンライン開催と後継者育成
- 福永伸哉
- 第35回考古学研究会東海例会「愛鷹山麓の後期旧石器時代前半期の狩猟活動と植生改変」開催報告
- 山岡拓也
論文
- 弥生時代の北部九州における鉄剣生産の再検討
- ライアン・ジョセフ
要旨 弥生時代の北部九州における鉄剣生産を再検討するため,製作技術が如実に表れる厚みや身部横断面形態を中心にその形態的変遷を明らかにした。第1段階(中期後葉~後期前葉)は厚手の資料が大半で次段階との非連続性が顕著である。筆者は舶載品が主体的であると考えるが,列島製だとしても,次段階には継承されず,技術が断絶したと考えるべきである。第2段階(後期中葉~後期後葉)は,薄手短剣の生産が増加すると推測でき,次段階への過渡期と位置付けた。第3段階(終末期~古墳前期前半)は,在地製の薄手短剣が圧倒的に主体を占める。列島の中で最高の鉄器製作技術水準を誇る北部九州における鉄剣生産を大きく見直した本稿の分析結果は,列島各地の出土鉄剣の生産地を考える上でも重要な意味をもつ。
キーワード 鉄剣,弥生時代,古墳時代,鉄器生産,鉄製武器
- 再考 貞観津波―考古学から「津波堆積物」を考える―
- 相原淳一
要旨 本稿は,2011年3月11日の東日本大震災から10年の節目を迎え,これまで調査されてきた「津波堆積物」,特に869年貞観津波に関する考古学的研究成果を総括する。
貞観津波堆積層は宮城県山元町水神沼の調査や山元町熊の作遺跡・多賀城市山王遺跡で検出され,2004年インド洋大津波で明らかにされた津波堆積物固有の堆積構造と同様であることが確認された。通常,堤間湿地等で行われる自然科学のボーリング調査で確認されるのは未変形の津波堆積物ではなく,ほとんどの場合,風雨に曝されながら埋没する過程で低所へと移動した二次堆積物である。閉じた環境の遺構内には,津波固有の堆積構造が残されており,遺構の津波被災の判定には,土層の剥ぎ取り調査法と珪藻分析が有効である。
熊の作遺跡と山王遺跡の貞観津波堆積層は3.11津波浸水域よりも高い場所で確認された。過去1500年間で最も高い位置に貞観津波は及んでおり,『日本三代実録』に残された記録をほぼ裏付けるものである。
キーワード 津波堆積物,津波固有の堆積構造,津波堆積層,剥ぎ取り調査法,珪藻分析
- 平安時代陸奥国における陶磁器模倣とその地域性―幾何学的形態測定学の手法を用いた土器形状の定量化―
- 舘内魁生
要旨 9世紀後半から10世紀にかけて,中国産陶磁器の形態を模倣した土器が日本各地で製作されるようになり,土器様式の画期と位置づけられてきた。本研究は,東北地方を舞台に陶磁器の模倣行為による器形の変化を定量的に示し,その地域性から地域間の関係の解明を試みた。幾何学的形態測定学の手法である楕円フーリエ解析とセミランドマーク法を用いて器形を定量的に分析した結果,国府や鎮守府ではいち早く形態変化が起きたが,その他の地域では変化が遅れるか変化が見られないことが分かった。モデルである陶磁器の入手のしやすさと国府や畿内との交流の強弱が,形態変化の地域差を引き起こしていると考えられた。
キーワード 陶磁器模倣,地域間関係,東北地方,コテ状工具,幾何学的形態測定学
書評
- 御堂島正 編『石器痕跡研究の理論と実践』
- 森先一貴
新刊紹介
- 小野 昭 著『ビジュアル版 考古学ガイドブック』
- 上峯篤史
- 水ノ江和同 著『入門 埋蔵文化財と考古学』
- 高田健一
- 設楽博己 著『顔の考古学―異形の精神史―』
- 中川朋美
- 鈴木真太郎 著『古代マヤ文明―栄華と衰亡の3000年―』
- 市川 彰
考古フォーカス
- 佐賀県唐津市 黒岩前田遺跡の発掘調査
- 唐津市教育委員会
- 東南アジア先史時代のネフライト製石器の研究
- 飯塚義之
全国委員つうしん