〒700-0027
岡山県岡山市北区清心町16-37長井ビル201
TEL・FAX 086-255-7840
ポスターセッション要旨
第71回研究集会ポスターセッションタイトル・要旨一覧
1 陳永強 「特殊須恵器の分布地域と時期的変遷、階層性について」
本研究は、柴垣勇夫(1987)が提案した特殊須恵器の枠組みに基づき、陶邑窯で生産されていない角杯、皮袋形瓶、特殊扁壺、三足壺、鳥形瓶、縦型環状瓶を対象に詳細な分析を行った。新出資料を含めた再集成を行い、その分布傾向や消長時期を再検討した上で、出土遺跡や埋葬施設の規模、共伴遺物の種類を分析し、特殊須恵器が示す階層構造を明らかにした。最後に、これらの結果を総合し、当該期における特殊須恵器の文化的・社会的意義を考察した。
2 岩﨑郁実 ・田中元浩・沼野月子「古墳時代における土器製塩技術の復元 -実験考古学の成果から-」
和歌山市西庄遺跡は、古墳時代中後期における大規模製塩遺跡である。当遺跡の製塩土器は丸底式でコップ形・椀形・甕形が併存する。この組成に対し「製塩土器は煎熬用・焼塩用と用途を使い分けていた」との仮説を立て、製塩実験による検証を行った。その結果、煎熬・焼塩の各工程に対し明確な製塩土器の機能差が認められたほか、生産塩の保存性にも有意な差がみられた。これは内容物が残存しないため、研究が遅滞しがちな古墳時代の製塩技術の解明に寄与する成果といえる。
3 関広尚世 「アフリカ考古学の射程-紛争下におけるスーダン共和国の文化財の場合」
筆者は2022年よりスーダンにおけるリビングヘリテージ研究の現地コンダクターを務め、主として無形遺産に関する発信を行ってきたが、本来の専門は考古学や文化財学である。2023年4月に始まった紛争により、保護や研究の転換点を迎えたのは当然、無形遺産だけではない。本発表では、紛争下における有形と無形文化遺産の境界とその分類の功罪、日本におけるアフリカ考古学の現状と意義、紛争下の文化財保護と喫緊に必要な国際支援などを踏まえ、日本におけるアフリカ考古学の射程を論じる。
4 橋本佳奈「 底部刻印を有する土器からみた擦文文化の様相について」
擦文文化期には土器の底部に線刻を施した刻印土器が一部確認され、これまでその地域性などが指摘されていたが、時期について北海道島全体で検討されていなかったため、新たに集成を行い分布の検討と時期比定を行った。結果、刻印土器の画期を指摘し対外交流に目を向けられることも多い擦文文化を刻印土器という視点から文化圏内での動きという新たな可能性を提示した。同時に、土器型式群の動態と歴史的位置づけの結びつきには検討の余地があるという課題点も見込まれた。
5 西平孝史 「石彫直弧文をパーツ図形から読み解く 」
「彫ってわかった石彫A型・B型直弧文の構図原理」(考古学研究 第69巻 第1号 通算273号)を継ぎ,後に続く「石彫直弧文の系譜を導く」ための主要な図形でありながら,先学で欠落してきた「パーツ図形論」を展開する。
構図原理の基本である「ベース図形・パーツ図形・ユニット図形・セット図形」の視点で先学を洗い出すことで「パーツ図形」視点の欠落に気が付き,その根拠となった凹み表現(復元レプリカ)を展示し実感してもらいたい。
6 小林青樹 ・清水昭博・比佐陽一 郎・原田憲二郎・岩戸晶子・村瀨陸・谷川遼・米田拓海・森山そらの・植木実果子・李效陳「古墳・飛鳥移行期の布目圧痕分析ー埴輪・陶棺・瓦の関係ー」
埴輪・陶棺・瓦の布目は焼き物専用の布である。レプリカ法による分析の結果、6世紀後半の大和の陶棺群の布目圧痕と飛鳥時代の瓦の布目はほぼ同じで、飛鳥寺創建前に瓦専用の布生産と使用が埴輪工人により実践されていた。また陶棺本体を瓦製作で用いる糸鋸で切断しており、埴輪工人が陶棺を経て瓦生産に関与した可能性が浮上する。なお5世紀の畿内中枢の埴輪に同種の布目圧痕があり、古墳・飛鳥移行期の焼き物専用布が日中韓いずれの系譜にあるか検討中である。
7 南健太郎・北島真樹・羽間綾音・山下堅土・小田祐太「 琵琶湖の湖底地形と石群・礫群分布からみた坂本城跡の縄張り」
滋賀県大津市に所在する坂本城跡は織豊系城郭の初期段階のものであり、琵琶湖中に石垣が築かれていることで著名である。坂本城跡ではこれまでの水中考古学的調査によって、既知の石垣の範囲以外で石群や礫群の分布が確認されている。本発表ではそれらの分布状況と湖底地形の測量調査成果、さらに遺物の分布状況から、城の構造や琵琶湖岸の利用実態について考察する。
8 橋本侑大「 経塚からみた中国・四国地方 」
中国・四国地方の経塚研究は、県単位の研究や特定の材質で作られた容器を対象とした研究が主であり、地域全体を総合的に扱った研究が行われていない。そこで、本研究では11世紀~13世紀の経塚を対象として遺跡を抽出し、各経塚から出土した経容器を材質や製作技法を基に分類して、その分布などから経塚からみた地域的性格を明らかにしようとするものである。
特に、陶製、瓦質、土師質などの容器は分類基準が曖昧なため、特定の基準を設定したうえで分類を行った。
9 光石鳴巳・内山ひろせ・津村宏臣「 翠鳥園遺跡における石器接合資料の研究」
発表者らは、石器の接合関係抽出を効率的におこなうことを目的に、既存の石器接合資料を3Dモデル化し、AIを活用した剥離面間のマッチングを試みており、教師データに翠鳥園遺跡の接合資料を利用している。任意に選定した14組の接合資料について、解体して再接合するだけでなく、付随して剥離離過程を記録するなどしている。発表では、こうした石器接合資料に関する作業の様子を紹介しながら、得られた知見の一端を示すことにしたい。
10 舩越雅子「 ハケメ同定からみた弥生時代前期における土器生産の実態―広島県大朝盆地をケーススタディとして― 」
広島県大朝盆地の遺跡から出土した弥生時代前期の甕形土器について、ハケメ同定を行い、成形方法や器面調整、出土状況との相関関係を検討した。その結果、器面調整が同じ土器どうしだけでなく、異なる土器どうしでもハケメ寛窄パターン(ハケメパターン)が一致することが明らかとなった。また遺跡間ではパターンの一致がみられなかった。弥生前期土器について、個人レベルまで踏み込んで生産の実態に迫ることができたといえる。
11 須賀永帰・鈴木秋平「 石器石材の物性を評価する:複数の石器石材を対象とした硬さと表面粗さ測定結果の比較から 」
先史時代では多様な岩石を打製石器の石材として用いていた。岩石によって構成要素や物性が異なり、運搬コストや製作物に応じて使い分けていたと考えられている。本発表では、打製石器の石材の物性を定量的に特徴づけるために、ビッカース硬さと表面粗さを測定した。ビッカース硬さは石材の剥離しやすさ、表面粗さは石材を区別する指標として期待される。そして関東地方を中心に採取した石材において、力学的な硬さと表面粗さが相関しているかどうかを検証する。
12 江本凜「花十字紋瓦の変容 ―紋様形態と製作技術の分析を中心として― 」
花十字紋瓦は近世初頭の長崎市内キリスト教会に葺かれていた軒丸瓦であるが、詳細な使用時期・製作体制は未解明であった。本研究では紋様形態の再分類を行い、型式学的な変遷案を作成することで、位置づけの行われていなかった型式の使用時期を想定した。また、瓦当面ハナレ砂の付着状況をはじめとした製作技法に着目し、紋様形態が共通する型式では製作痕跡が一致することから、特定の型式間で共通の製作集団が存在することを指摘した。
13 高尾 将矢 「出土加工銭の研究」
遺跡からは、小孔や放射状の溝を施す加工銭が出土する。北海道・沖縄の出土例は、中国・東南アジアの民族例を参考とすると装身具として、利用されたと考えられる。一方、本州では一括出土銭中から出土することが多く、加工後に再流通している状況が窺える。そのためどのように利用したか不明瞭である。また加工が渡来前、渡来後いずれかに行われたものか明らかではない。こうした北海道・沖縄と本州での加工銭使用方法の差異や研究の現状を整理する。
14 張 睿帆 「東海地方における匣鉢の導入とその型式からみた古代東アジア窯業技術交流史」
本報告では、猿投窯を中心に、古代東海地方の窯業生産における匣鉢の存在についてまとめた上で、その形、分布、源流、および使用方法について検討した。匣鉢の出現が三叉トチンより遅れた可能性が高いと考えたほか、特に8世紀後半から9世紀初頭に操業した越州窯とのさまざまな類似性から、匣鉢という窯道具は延暦度の遣唐使によってもたらされた可能性を着目した。
15 長友朋子・木立雅朗・廣瀬覚・榊原悠介・金井千紘・石川康紀・LINWanchen・森下寧々 「埴輪の野焼きおよび窯焼成実験」
混和材の異なる4種類の胎土で埴輪を製作し、野焼きおよび窯焼成をおこなった。野焼きでは混和材の少ない胎土は破損したのに対し、混和量の多い胎土の埴輪は破損しなかった。また、窯焼成はどの胎土も破損しなかった。さらに、窯焼成は、酸化気味低温で焼成した結果、赤みを帯びた色調の仕上がりになった。さらに、野焼きは重ねて焼成し、下段、中段、上段の埴輪の黒斑形状を観察した。
16 矢野 健一・ Corey Tyler NOXON「土器量変化を利用した人口推計の課題-京都大学構内遺跡群の事例研究」
発表者は、京都大学構内遺跡群の各地点の細別時期別土器点数を報告者から集計し、遺跡群所在地に居住・活動した人口を推計する研究を実施し、成果を公表してきた。この方法では、報告書未掲載の資料の扱いが問題となる。そのため、一部の地点において報告書掲載・未掲載資料の出土土器すべての重量を計測し、その結果から、報告書掲載土器点数を実際の出土点数および出土重量に近い形に修正する方法を試みたので、その結果を報告する。
17 小林正史 「韓半島の三国時代における1個掛け竈と2個掛け竈の違いの意味」
韓半島の三国時代の竈には、①1個掛け竈の京畿道(漢城百済)、②1個掛け竈が主体で移動式竈も用いた慶尚道(新羅)、③2個掛け(支脚2個並列型、両方とも甑を載せた)と1個掛け(支脚中央1個型)が同一集落内に並存する南西部(百済南半と伽耶)という地域差が存在する。違いの背景について先行研究では世帯規模や雑穀/米比率が検討されてきた。本発表では、粳米蒸し民族誌調査の成果を踏まえて主食蒸し調理法(二度蒸し法か茹で蒸し法か)との関連を検討する。
18 和田 花 「実験考古学による土馬の焼成時爆発痕跡の検討」
畿内における土師質土馬の生産に関する検討は今まで行われていない。明らかに土馬が生産された遺構が発見されていないからである。しかし、土馬に焼成時爆発痕跡を確認することができれば、遺物から生産地を推定することが可能である。筆者は三重県北野遺跡の土師器焼成土坑に廃棄された土馬に焼成時爆発痕跡を確認し、焼成実験によって再現することに成功した。本発表では実験をもとに、畿内で出土する土馬の焼成時爆発痕跡の有無を確認し土馬の生産地について検討を行う。
19 宮本真二・安藤和雄・内田晴・吉野馨子 ・大西信弘・Nityananda Deka・Md. Rashedur Rahman・浅田晴久 「アジア・モンスーン地域の地形環境の変遷と土地開発過程の検討」
アジア・モンスーン地域(南アジア地域と日本)におけるヒトの移動・定住過程と,その要因を解明するため,①土地開発過程を地域ごとに復原し,②土地選択要因を検討,そして,③地域間の共通・異質性を解析した.当該地域では,遺跡発掘調査などの直接的な歴史史・資料は限定的で,埋没腐植土壌等を指標とする「間接的な土地開発史の復原法」で地域間対比を行い,地域ごとに④土地開発史モデルを議論する。
20 高橋寛宇 「豊後国に所在する碑伝型板碑の形態学的検討」
これまでの考古学的板碑研究では、紀年銘を時間軸とした板碑の物質的変異に関した議論が進められ、諸属性間の相関を検討し、形態変化そのものに時間軸を与えた例は少ない。本研究では、豊後国に所在する碑伝型板碑を、型式学的手法と多変量解析を用いて形態学的に分類し、これに時間軸を与えることを試みた。結果として、時間変化の鋭敏な属性とそうでない属性が析出され、これらを基にして新たな歴史叙述の可能性が示唆された。
21 中村耕作 「縄文土器の複雑化と顔身体象徴」
顔面把手や顔面付注口土器など、縄文時代には、特定の時期・地域に集中して顔身体装飾をもった土器が出現する。これらは、従来個々の文脈を問わない象徴性が論じられるか、個々の類型のなかで検討されるに留まっていた。発表者は、類型ごとの分析を重ねた結果、共通した現象が繰り返されることを見いだした。それは儀礼用土器の種類や造形の複雑化のなかで顔身体が位置づけられるという点であり、土器や顔身体象徴の縄文的特徴といえる。
22 ピエトラシキエヴィチ レナ 「縄文時代後・晩期における装飾土偶と無文土偶」
縄文時代後期後半以降になると、立体的に頭部を造形し、胴部に文様を施す装飾土偶と簡素な無文土偶が製作される。この時期において、装飾性のある土器を製作する東日本と、装飾性の乏しい土器を製作する西日本で土器文化の様相に地域差が生じており、土偶も同じように装飾土偶と無文土偶には地域差がみられる。そこで本発表では、縄文時代後・晩期における装飾土偶と無文土偶の時期的変遷や地域性について検討し、東西差やその社会背景について考える。
23 幡中光輔 ・南 武志・高橋和也・上山晶子「超微量赤色顔料の理化学分析が拓く縄文時代の集落像と交流の様相」
本発表では、島根県五明田遺跡から出土した複数の石器付着赤色顔料を対象に、数粒程度採取した赤色顔料の微小部蛍光X線分析によって水銀朱を検出し、加えて「目に見える一粒」で分析可能となる水銀朱の硫黄同位体比分析を実践した成果を報告する。今回の分析成果によって、五明田遺跡は複数の産地から水銀朱を入手して体系的に加工した水銀朱精製の拠点的な集落であった可能性が指摘でき、縄文時代の集落像や交流の様相に迫る重要な手掛かりを得ることができた。
24 磯部紗希 「研磨痕から検討する柳葉式銅鏃の製作単位」
古墳時代前期の副葬品である、柳葉式銅鏃の製作技術の一段階である研磨に着目し、製作単位の検討を行った。鏃身部の研磨痕をデジタルマイクロスコープで観察し、古墳ごとの研磨手法の組成を確認した。また、研磨痕の角度と鏃身部各部位の法量の主成分分析の結果から、一古墳を単位とする製作単位を見出した。これは、需要が生じたときに、その都度集中的に製作され、配布されたことも想定でき、柳葉式銅鏃の製作・配布の実態に示唆を与えるものである。
25 Stephen West 「GISからみた古代吉備の集落動態と人口動態の関連性」
吉備の先史時代における人口動態を明らかにするため、集落遺跡の建築物(竪穴建物・掘立柱建物・段状遺構・等)を網羅的にまとめた。各遺構の時期を絶対年代で推定し、位置情報と合わせてGISで可視化した。縄文時代晩期から平安時代までの集落動態と人口推定を比較した結果、人口規模と建物数の相違を指摘した。今後の集落動態研究には、発見率・保存率のバイアスに対応する必要があると結論する。
26 長谷川 愛 「琴形木製品から見る日本海沿岸地域の交流」
京都府にある正垣遺跡からは弥生時代後期の琴形木製品が出土している。その端部にある突起は、鋭く尖った三角形の先端に切り込みが入った燕尾のような形状である。これと似た特徴を持つ琴形木製品は弥生後期あたりの北陸地方で多く見られることから、丹後半島と北陸地方の間の技術的交流について、琴形木製品からも推測が可能かと考えた。また、北陸地方の琴形木製品では、突起が燕尾のような形状でも僅かに差異が見られることから、他地域との交流があったと考えられる。