ポスターセッション要旨


第69回研究集会ポスターセッション題目・要旨


1.埴輪焼成実験―野焼きと窯焼きの黒斑の特徴―
            長友朋子・石川康紀・金井千紘・軽野大希・塚本紘太郎・木立雅朗・廣瀬覚
 最高温度が 900 度を超える窯焼成の場合、黒斑は残存しないと考えられてきた。しかし近年、朝鮮半島三国時代の甕棺墓の甕のように、窯焼成土器に黒斑のような痕跡の付く事例がみられることから、黒斑の付着が野焼きの証拠と言いにくい状況が生じている。そこで、実験により窯焼成で黒斑が残りうるかを検証する。さらに、実験により野焼きと窯焼きの黒斑の特徴を明確にする。


2.京都の土師器製作者は作り方を教えたのか?
-12・13 世紀に起きた京都系土師器の東日本への拡散について-              舘内魁生
 中世初頭、京都の土師器皿に似た土器が東日本で作られはじめた。しかし、京都の土師器製作者がこの動向にどの程度関与していたかは不明で、歴史的な評価を困難にしている。そこで、製作痕跡から復元した製作者の動作、器壁の厚さなどの属性を地域ごとに比較した。結果、平泉などでは京都からの直接的な伝習が、伊豆などでは間接的な情報の受容があったと考えられ、都鄙交流の実態に迫った。また、器壁の厚さや法量は各地の事情に合わせて改変された可能性がある。


3.土器量の変化から人口変化をイメージする―京都大学構内遺跡の事例研究―
                                   矢野健一・Corey NOXON
 京都大学構内遺跡各地点調査でこれまでに報告された縄文時代から近代までのすべての土器点数を集計した。100 年間あたりの土器量変化を統計学的処理を加えてグラフ化し、土器量変化から遺跡範囲の人口変化をイメージする。(1)縄文中期と縄文晩期のピーク時の土器量が近似する、(2)弥生・古墳時代は安定的集落が存在しない程度の土器量であることなどがわかった。奈良時代以降は、13 世紀にピークがあり、16・17 世紀には縄文集落継続期の人口と同程度かそれ以下と推測可能であった。


4.生徒指導×地域課題解決へのプロセス-学校と博物館・考古学との関わりの中で-
                                     八田友和・鈴木康二
 文部科学省が 2022 年 12 月に『生徒指導提要』を 12 年ぶりに改訂・公表した。児童生徒の発達を支える生徒指導において、博物館や考古学が関わる余地は多くあるが、本発表では「発達支持的生徒指導」にスポットをあてて、博物館や考古学の関わりを考えたい。具体的には、地域が抱える諸課題の解決を目指した児童生徒による学習活動を、博物館や考古学者が支援する学習形態を模索したい。生徒指導が果たす役割を学校だけでなく、地域全体で担っていく姿について考えたい。


5.縄文早期後葉の東海系土器の岩石学的分析-愛知県南知多町天神山遺跡-
                                三島理依・須賀永帰・門脇誠二

 縄文時代早期後葉の東海地方では地域性の強い土器型式が展開し、近畿・北陸・関東にも影響を及ぼしたことが知られている。この背景にある社会交流に関する基礎データを得るため、本研究は天神山遺跡(愛知県南知多町)から出土した縄文土器の岩石学的分析を行った。当遺跡は縄文時代早期末頃に相当する少なくとも 10 種類の連続した土器型式が出土し、7600–7000 cal BP という 14C年代が得られている。このうち、上ノ山I式、入海I式、石山式、天神山式の土器片(合計 30 点)をサンプルし、薄片を作成して偏光顕微鏡下で胎土中の砂の構成種と量比を計測した。結果として得られた岩石鉱物組成を用いて対応分析を行い、土器型式と胎土の構成成分の関連度をマッピングし検討した。


6.大和における古墳時代後期紡錘車の問題―天理市布留遺跡の分析を中心に―
                            小林青樹・池田保信・垣内翼・荒木清花
 今回、分析例が少ない畿内中枢である大和における古墳時代中後期の紡錘車ついて分析を行った。特に分析の中心である天理市布留遺跡は、古墳時代後期の物部氏の拠点と目される大規模遺跡であり、当該時期の紡錘車の出土量は大和で最も多い。本遺跡では、地区ごとに生産拠点などの機能が分かれており、紡錘車もこうした生産拠点の一角を占めていることが判明した。さらに大和の他の大規模遺跡と比較検討した結果、渡来系と在来系の紡錘車の比率などが遺跡ごとに異なる様相を示すことが判明した。


7.天理市小路遺跡における古墳時代後期の井戸祭祀と斎串の問題
                            谷野誠也・瀬部和宏・小林青樹・垣内翼
 本研究は、奈良県天理市小路遺跡における古墳時代後期の井戸(SE02)とそこで行われた祭祀遺物である斎串について問題提起する。本井戸は縦板組み横桟隅柱型の井戸で、大和地域でも稀なタイプである。そして本井戸の下層から斎串が2点とその他同種の木製祭祀具が 12 点出土した。出土状況から古墳時代後期のものである。今回は同時期の斎串の類例を再検討した結果、斎串は古墳時代後期に遡り、かつ小路遺跡での例は大和における初源的な斎串の一つとしての重要性が判明した。


8.古墳時代石製品の分布と流通                            二村真司
 古墳時代前期に盛行した各種石製品は、製作後に様々な経路で流通し、各地で入手・保有され、副葬に供された。本発表では、石製品のうち最多の資料数をもつ石釧を中心に、資料の流通時期、流通形態、保有主体、流通のコントロールの4つの視角から流通・入手・保有・副葬のあり方を分布地域ごとに分析する。また、各地域の流通の類型やその配置から、製作から副葬に至るまでに石製品が媒介した集団内/集団(個人)間関係を考察する。

9.奈良県斑鳩町戸垣山古墳・舟塚古墳の調査成果
                      豊島直博・上野喜則・行天就要・松木研太・水川慶紀
 奈良大学文学部文化財学科は、斑鳩町教育委員会と共同で町内の古墳の調査研究を続けている。令和4年度は戸垣山古墳と舟塚古墳の第2次発掘調査を実施した。戸垣山古墳は一辺約 20mの方墳である。墳頂部で埋葬施設の可能性がある土坑を確認し、中期前半頃の埴輪が出土した。舟塚古墳は直径 8.5mの円墳である。横穴式石室の一部と考えられる石材を確認し、後期後半頃の須恵器が出土した。


10.縄文時代古人骨頭蓋形状の幾何学的形態測定による分析
                  中尾央・中川朋美・田村光平・金田明大・吉田真優・野下浩司
 近年、様々な考古遺物に関して三次元データの取得、そして取得された三次元データの数理解析が進められている。本研究では、縄文時代早期〜晩期までにおける、青森から鹿児島までの古人骨頭蓋(総数 350 体程度)について、レーザースキャナーや SfM/MVS によって三次元計測を行い、得られた三次元データを幾何学的形態測定(geometric morphometrics)の手法(と主成分分析などの統計的手法)によって解析し、時期差・地域差について検討した結果を示す。


11.亀甲文鏡の変遷                                  高尾将矢
 本研究では、鎌倉時代に出現した亀甲地文鏡を取り上げ、亀甲地文の変遷について考察を行う。まず亀甲地文鏡の出土・伝世品を集成し分類を試みた。その結果、亀甲地文鏡は、以下の変遷を辿ることが明らかとなった。花文亀甲地文(14 世紀)→菊亀甲地文(14 世紀)→三盛菊亀甲文(14世紀)→三盛花菱亀甲文(15 世紀)→花菱亀甲地文(16 世紀中葉)→単体の花菱亀甲文(16 世紀後葉)。17 世紀以降は、花菱亀甲地文柄鏡が主体となる。


12.唐三彩陶枕の分類と流通                               陳斯雅
 これまで、日本から出土した唐代の釉陶器は、三彩枕が中心であることが注目されている。一方、中国では、三彩枕は唐代の城址、墳墓および窯跡で散見されるのみで、それに関する研究も少ない。そこで本発表では、中国で出土した三彩枕を網羅し、日本の分析手法を用いて器形・装飾の再分類を試み、系譜を明らかにすることで当時の中国における流通の実相に迫る。さらに、日本出土品との比較から、日中間の流通についても検討する。


13.学生の「気づき・学び」-ワークショップでの子どもの反応をきっかけとして-     鈴木康二
 NPO 法人ちゃいれじでは、子ども(幼児/児童)とスタッフ(学生等)が、「1 対 1」で向き合えることを可能な限り念頭におきながら、子どもに寄り添う形で、これまで様々なワークショップを実施してきた。本報告では、真弧や土器片、高瀬舟や高瀬川で採取した陶磁器片などを素材として実施したワークショップを中心に、改めて、スタッフとして協力してくれた「学生」に焦点を当て、彼らの「気づき」あるいは「学び」についてアンケート結果を元に整理してみたい。


14.岡山県南部における弥生時代後期の形象遺物群                     光本 順
 弥生時代後期の岡山県南部では、立体的な形象遺物が、特に楯築墳丘墓(弧帯石、人、家)や女男岩遺跡(家)、甫崎天神山遺跡(鳥)、雲山鳥打墳丘墓群(鳥、家)、矢部出土(龍)において、弥生墳丘墓を中心としながら小地域に集中する現象が認められる。本発表では、形象遺物群に関する三次元計測を用いた資料化の一部および今後の展望について示す。本発表は科研費 21K00955 の成果の一部である。


15.滋賀県大津市坂本城跡の水中考古学的調査            南健太郎・中川永・雨宮まひる
 京都橘大学考古学研究室では 2022 年度に滋賀県大津市坂本城跡の水中考古学的調査を実施した。坂本城は明智光秀が元亀3年(1572)年に琵琶湖岸に築いた城で、現在本丸に伴うと考えられる石垣の基底部のみが湖中に残されている。今回はこれまで未調査であった範囲における遺構・遺物の確認を目的とし、スノーケリングによる潜水調査を行った。
 その結果、既知の石垣と同サイズの石群や遺物の分布を確認した。坂本城跡本丸の構造を考える上で重要なデータが得られた。


16.岡山県出土縄文人の頭蓋骨と古 DNA 分析について       富岡直人・宇佐美礼恩・覚張隆史
 自然人類学の古 DNA 分析の発達により一部人骨資料のゲノム解読が実現し、岡山では倉敷市船倉貝塚資料のデータが把握された。西日本において有数の縄文人骨を出土する岡山県において、頭蓋骨形態の研究成果を概括する一方、ミトコンドリア DNA 研究の成果も合わせ、それらを統合する視点について今後の展望を論じる。