ポスターセッション要旨


第70回研究集会ポスターセッション要旨


1.岩﨑志保、山口雄治「観覧者は展示をどのように見るか?-考古資料展示におけるアイトラッキングを用いた分析-」

【要旨】考古資料展示における観覧者の注視データ(軌跡・継続時間など)を分析することにより、観覧者の興味・関心と、展示要素(遺物の配置・展示方法、パネルの配置・文字数ほか)との関連性を探り、その結果を展示の企画・構成に活用できる可能性がある。今回は試みとして、実際の展示会場で実施したアイトラッキング調査と、観覧後に記入されたアンケートを併せた分析を提示する。

2.小澤麻帆「弥生時代のシカ図像」

【要旨】弥生時代には土器や銅鐸などに絵が描かれることがある。それらは「弥生絵画」と称され、奈良県唐古・鍵遺跡を中心に九州から関東まで広範囲に分布する。本研究では、それらの中で最も描かれたシカ図像を対象とし、日本列島における出現、拡散、受容についての一連の過程を明らかにする。また、地域毎におけるシカ図像の動向についても検討を行う。そして「弥生絵画」から弥生時代における地域間交流の一端を論じることを目的とする。

3.春日勇人、春日佑吏子「考古学情報及び古代人骨ゲノム情報を用いたエージェントシミュレーションによる縄文系弥生人と渡来人の交雑度推定」

【要旨】2010年代後半から日本列島の古代人骨DNA分析データが多く発表され,縄文系弥生人と渡来人の遺伝子関係が明らかになってきている。しかし分子人類学の取り組みを考古学情報と結び付けなければ当時の人々の文化や交流を復元することは困難である。そこで本研究ではエージェントシミュレーションを用いた土器や集落等の考古学情報とゲノム情報を入力とした縄文系弥生人と渡来人の交雑度推定及び文化交流の可視化を行う。

4.小林青樹、原田憲二郎、森山そらの、岩田朱音、植田夏夢、高橋麻結、植田夏夢、生田哲也、松田青空「古代瓦のテキスタイル圧痕分析が提起する問題-奈良市秋篠山陵遺跡出土古代布目瓦のケーススタディ-」

【要旨】先史・古代のテキスタイル考古学研究の一環として、奈良市秋篠山陵遺跡(秋篠寺)出土の瓦当文様型式が明確な軒平瓦の布目圧痕についてレプリカ法等による微細分析を行った結果、平城京系や秋篠寺系等の文様型式ごとに、特に糸の圧痕データ群が明確に分離した纏まりを形成することが判明した。今後、この分析手法は同范瓦で造瓦体制間の関係性を検討する際に、范・製品・工人の移動の有無を同定・識別する有効な手法となるであろう。

5.式田洸「庄内甕成立過程の再検討」

【要旨】弥生時代から古墳時代への移行期に畿内地域に出現する庄内甕について、製作技術的な視点から地域を横断して比較検討し、その成立過程を論じる。現在、畿内地域のタタキ技法と吉備地域の内面ケズリ技法の融合により庄内甕が出現するという見解が定説化しているが、検討の結果、庄内甕の製作技術はⅤ様式甕の要素をほとんど引き継がず、吉備地域の甕製作技術の範疇で説明できることを明らかにした。一方、形態的には、畿内地域内部での連続性が認められることにも注目する。

6.島﨑達也「マリアナ諸島考古学からの北硫黄島石野遺跡の再評価」

【要旨】石野遺跡の土器は、発掘調査報告書にて、他地域と比較対照困難な独自の在地土器とされた。しかしこれらの土器には、南に隣接するマリアナ諸島で同時代に使用されていた平底土器群と極めて類似する特徴が認められる。報告書にて石野遺跡は、沖縄方面との関係が極めて密接と評価されているが、適切な文献調査と土器の特徴から、紀元前後にマリアナ諸島から北上したチャモルの祖先が日本国内に遺した遺跡として再評価されるべきだろう。

7.白石哲也、櫻井要「縄文クッキーの実験考古学-山形県押出遺跡の事例から-」

【要旨】本発表では、山形県押出遺跡で出土した炭化したクッキー状炭化物を実験的に再現した。これらの炭化した加工食品は、東日本の縄文遺跡から約210点の報告例があり(中村2007)、C/N同位体比分析により、堅果類のデンプンを主成分としている可能性が示されている(國木田2012)。そこで、今回は、縄文時代に存在した可能性のある植物性食料のみで製作実験を行い、それらの栄養評価までを実施した。

8.住谷善愼「倭の七王の比定」

【要旨】中国正史『宋書』に讚・珍・済・興・武と記す「倭の五王」比定につき、倭国伝と皇帝本紀による事跡を分析し、18通りの組合せを得た。さらに、「紀」の大王の漢風諡号の2字目の音(オン)に注目した。結果、倭王(430年)、倭国(460年)と記す大王にそれぞれ仁徳、允恭が合理的に対応することとなり「七王」となる。さらに、この「七王」をベースに、「紀」の大王系譜に『宋書』等の3条件を反映して、直系・傍系とする新しい「七王」系譜を得た。

9.高尾将矢「新潟県出土の中世和鏡」

【要旨】中世和鏡の研究は、主に美術的観点から進められてきた。しかし、近年の発掘調査の増加に伴い、遺跡からの出土例が増加し、考古学的側面から研究・分析する必要性が増している。2018年には、國學院大學により、全国の出土中世和鏡の集成結果が示された。しかし、県内の集成に若干の遺漏が認められる。そこで、遺漏分と近年の出土例を追記し集成を行った。また同時に、形態や共伴遺物から編年的位置付けを行い、県内出土の中世和鏡の実態を明らかとする。

10.千葉毅「表面採集した考古資料は誰のものか -資料散逸を防ぎ、適切に保管するための考え方の整理-」

【要旨】博物館では、個人が採集した考古資料の寄贈打診を受けることがしばしばある。資料の寄贈を受けるには、当該資料が寄贈申入者の所有物である必要があるが、表面採集により収集された考古資料は、遺失物法の手続きを経ていないものが大多数であり、採集者(寄贈申入者)が適法に所有するものかどうかの判断が難しいことが少なくない。本発表では、文化財を不用意に散逸させず、適切に収蔵、保管するために、関連法を確認し、考え方の整理を行う。

11.張睿帆「中国考古資料から見た猿投窯陰刻花文の祖型とその分類」

【要旨】平安時代の猿投窯施釉陶器における陰刻文様の祖型について、近年以来の中国の陶磁質や金属質新出土品を検討した。その上で、中国金銀器模倣指向というルーツの可能性を無視することはできないが、中国陶磁器模倣指向も可能性の一つであるとも考えられる。また、窯跡から出土した陰刻宝相花文の画数の再検討を通して、K−14号窯式期段階に猿投窯には黒笹産区と鳴海産区の線刻技法の方法が違ったため、両地の画工集団でも異なると考えられる。

12.陳永強「製作技術からみた日本列島における皮袋形瓶の地域間交流」

【要旨】本研究では、古墳時代の日本列島における皮袋形瓶に焦点を当て、82遺跡から発見された87点の皮袋形瓶と、出土地不明な15点の資料を集成・分析した。これにより、地方ごとの出土状況の比較から、文化的背景や使用目的に地域間での違いが明らかになった。また、皮袋形瓶の製作技術を通じて、当該期における地域間交流の様相を考察した。

13.豊島直博、谷野誠也、上野喜則、行天就要、竹村昂起、松木研太、水川慶紀、望月拓海「奈良県斑鳩町舟塚古墳の発掘調査」

【要旨】奈良大学文学部文化財学科は斑鳩町教育委員会と共同で舟塚古墳の発掘調査を行った。舟塚古墳は法隆寺参道の駐車場内にあり、現状では直径8.5mの円墳である。右片袖式の横穴式石室の一部が残存し、多くの副葬品が出土した。出土した須恵器から、築造年代は6世紀後半と考えられる。石室の天井石は抜き取られており、埋土から7世紀の瓦が出土した。舟塚古墳の調査成果は、藤ノ木古墳築造以前の斑鳩を知るうえで重要である。

14.長友朋子・廣瀬覚・木立雅朗・金井千紘・石川康紀・榊原悠介「埴輪の焼成実験-砂混和量の異なる胎土を用いた窯および野焼き-」

【要旨】埴輪の焼成方法解明のため、窯焼成と野焼きの実験をおこなった。窯焼成では徐々に温度が上昇するのに対し、野焼きは急激に温度が上昇する。急激に焼成温度が上昇すると、土の熱による膨張が急激に起こるため、埴輪の破損率が高まる。そこで、今回はどの程度の混和量で埴輪が割れるのかを検証するため、混和量の異なる4種類の土を用意して埴輪を製作し、野焼きと窯焼きで実験を実施した。

15.中村耕作・早川冨美子・渡辺ゆみ子「考古学と音楽教育の連携3-縄文土器をもとにした音楽づくりを中心とした教科等横断型授業の試み-」

【要旨】これまで地元の縄文土器を観察して音楽づくりを行うワークショップを、各地の小中学校、博物館、公民館等で実施してきた。今回、新潟市立早通南小学校で、信濃川火焔街道連携協議会の共催、新潟市文化財センター・津南町教育委員会の協力を得て、社会科・音楽科のほか家庭科や体育科でも関連する授業を行い、地元の縄文土器をもとに、新たな表現活動を作り出すための総合的な授業実践を行ったので報告する。

16.野﨑貴博「旧陸軍岡山部隊橋梁演習施設の発掘調査」

【要旨】岡山大学には旧陸軍駐屯地関連の建物・施設等がのこる。橋梁演習施設もその一つである。橋台部に自生した樹木によりレンガ積み構造物の破壊が進行したため、樹木を伐採し、あわせて最小限の発掘調査を実施した。その結果、橋台は竪壁の根入れが1.1m以上で、竪壁背面に大形のレンガ塊や礫を充填し、真砂土で固めた構築物であることが判明した。また、抜き取られた橋脚の掘り方を検出した。掘り方内に転倒防止のための石材を設置することも確認した。

17.松本建速「柳田国男の山人論と蝦夷の考古学」

【要旨】日本列島北部域の考古学・古代史の重要な話題の一つに、古代日本国成立期に国の外にいた「蝦夷」と呼ばれた人々についての論がある。蝦夷論は列島の先住民が誰で、その後どうなったかという問いと密接に関わる。最近、日本民俗学の父、柳田国男の山人論が戦前の蝦夷論の基盤にあり、縄文人が蝦夷となり現代東北の人々の祖先となったという近年も聞かれる説を間接的に支えていることがわかってきた。それを詳説し、「蝦夷とは誰か」、これを再び考古学で問う。

18.三阪一徳・杉佳樹「埋葬施設における赤色顔料使用に関する研究-岡山県域の弥生時代後期から古墳時代前期を対象として-」

【要旨】本研究では弥生時代後期から古墳時代前期の岡山県域における墳丘墓や古墳などの埋葬施設から検出された赤色顔料を対象とし、それらが使用された墳丘・墓壙・棺・槨の種類・規模、赤色顔料の種類・塗布散布パターン・量、共伴する副葬品の種類などについて、その時期的変化および地域差(備前・備中・美作)を明らかにする。この結果にもとづき、当該期の社会の階層化の過程において、埋葬施設での赤色顔料使用が担った役割について議論する。

19.光石鳴巳、白石純「岡山県恩原1・2遺跡における安山岩製石器の石材産地推定」

【要旨】発表者らは2015年以来、安山岩製石器の表面に生じた微小な欠けを利用した蛍光X線分析による石材産地推定を試みている。本研究では、岡山県鏡野町に所在する恩原1遺跡R・O・S文化層、同2遺跡S文化層に帰属する安山岩製石器33点を分析した。国分台産石材が主だが、一部に法印谷産や金山産、ごくわずかだが二上山産の石材が認められた。報告では文化層別の結果を示すとともに、課題にも触れることにしたい。

20.南健太郎、古谷優太、西野真優子、北島真樹、羽間綾音「滋賀県大津市坂本城跡における琵琶湖底石群の水中考古学的調査」

【要旨】京都橘大学考古学研究室では2022年度から滋賀県大津市坂本城跡の水中考古学的調査をおこなっている。2023年度は前年度に琵琶湖底で確認した石群の性格解明に向けたスキューバダイビングによる潜水調査を実施した。その結果、石群の周囲に石垣の栗石状の礫が面的に広がっていることが確認された。本ポスターセッションではこれらの成果に基づいて、坂本城本丸の琵琶湖側の様相を検討する。

21.向井一雄、山元敏裕「近年発見された広島県の古代山城について」

【要旨】昨年(2023)は広島県で古代山城の発見が相次いだ。3月に福山市加茂町北山所在の「芋原の大すき跡」と呼ばれる遺跡が古代山城の遺跡だと確認され、『続日本紀』養老三年(719)に備後の常城と共に停止記事がある茨城の可能性が極めて高い。東広島市と広島市の市境で未知の古代山城である「長者山城(仮称)」が発見された。本ポスターセッションでは、広島県の3つの古代山城-亀ヶ岳、芋原、長者山城について解説したい。

22.矢野健一、熊谷道夫、西田拓也、杉松治美、井上昭吾、小田﨑壱成、 宮川亮、Corey Tyler NOXON「葛籠尾崎湖底遺跡におけるAUVによる遺物分布調査」

【要旨】2023年12月に琵琶湖の葛籠尾崎湖底遺跡においてAVU(自律型水中ロボット)による土器分布調査を10日間実施した。その概要を含め、これまでに判明している当遺跡内の土器分布状況の概要を報告する。あわせて、これまでに引き上げられた遺物の概要を報告する。これらは湖成鉄が付着しているものが多く、3D画像による記録が有効であり、その画像も報告する。

23.山野ケン陽次郎、山極海嗣、片岡修「マリアナ諸島の人類はどこから来たか-貝製品からの分析-」

【要旨】マリアナ諸島の先史時代は先ラッテ期(1500 BC~AD1000頃)とラッテ期(AD1000~AD1521頃)に大別されており、言語学、人類学、考古学より各時期における人類の入植モデルが示されてきた。このうち考古学は土器研究に偏重しており、同時期に豊富に出土する貝製品の研究が不足している。マリアナ諸島の各時期の貝製品組成を示すことで、他地域との比較研究の素材とし、人類移動に関する研究の一助とする。

24.脇園大史「平沢官衙遺跡における市民参画型再整備デザイン検討ワークショップの実施-地域社会の変化に順応できる遺跡整備のあり方を目指して-」

【要旨】平沢官衙遺跡(つくば市)は、老朽化に伴い再整備の時期を迎えている。整備過程が一般に共有されることは少なく、市民が主体的に参画機会を得ることは難しい。発表者は、再整備予定の倉庫群の柱位置表示に注目し、そのデザインを市民と協働して検討することを目的としたワークショップを2023年3月に実施した。本発表では、その内容と成果をまとめ、整備過程における利害関係者間での遺跡像の共有が、将来的な地域変化に順応できる整備手法へつながる可能性を示す。

*発表者が複数の場合は記載の先頭が代表者である