目次
第55巻 第4号(通巻220号)
2009年3月
展 望
特集 続,発掘調査資格制度を考える−行政と大学教育からの分析と展望−
市町村埋蔵文化財行政に資格は必要か?
村松 篤
埋蔵文化財の活用と資格制度−市町村の視点から−
佐野 隆
埋蔵文化財の資格を考える
辻 秀人
発掘担当者に必要とされること
杉井 健
大阪府立博物館等の「見直し」の経過について
寺前直人
現代アートと考古学−第5回「犬島時間」参加記−
遠部 慎・岡嶋隆司・畑山智史
考古学研究会第55回研究集会趣旨説明・報告要旨
統一テーマ「親族と社会関係」をめぐって
吉田 広
古人骨資料から見た縄文時代の社会集団
舟橋京子
祖先祭祀と集団関係
設楽博己
近畿地方弥生時代の親族集団と社会構造
藤井 整
古墳時代における父系化の過程
清家 章
論 文
弥生時代開始年代をめぐる炭素14年代測定土器の検討
宮地聡一郎
要旨 歴博が炭素14年代測定法によって提示した弥生時代開始年代について,その測定に用いた土器の型式比定について検討し,提示された年代の是非について考察した。結果,歴博が夜臼Ⅱa式と理解した土器の中には,それよりも古い弥生時代開始期の山ノ寺・夜臼Ⅰ式に比定すべき資料が多数含まれていることが判り,弥生時代開始年代は提示された数値よりも炭素14年代で100年程度は新しく理解するのが自然であることが明らかとなった。また土器の広域編年から北部九州と他地域との整合性について検討を行った結果からも,歴博の北部九州の値は炭素14年代で100〜200年古く出過ぎていることが明らかとなり,かつて前10世紀後半と提示された弥生時代開始年代は成り立たないことが明らかとなった。
キーワード 炭素14年代測定,弥生時代開始年代,山ノ寺・夜臼Ⅰ式,型式比定,広域編年
生駒山西麓地域における古墳時代中期の古墳群形成の特質
西本和哉
要旨 本稿は,古墳時代中期におけるヤマト王権の政治構造を地域勢力内部の古墳群形成から明らかにすることを目的とする。そこで,良好な資料が得られる大阪平野の生駒山西麓地域を対象として検討をおこなった。まず,当該地域の円筒埴輪にみられる製作技法を観察し,小規模古墳の埴輪生産には古市古墳群の埴輪製作集団から専門的な埴輪工人が派遣されていることを想定した。次に,生駒山西麓地域の古墳群形成の変化に着目し,小規模古墳築造の画期が首長墓系譜の盛衰と合致していることを明らかにし,ヤマト王権の政治的意向は首長層のみならず地域勢力内部の階層構造にも影響を及ぼすものであったと考えた。このような分析結果を踏まえて,古墳時代中期の河内地域に所在する小規模古墳は極めて政治性の高い状況下で築造されているという見解を示した。
キーワード 小規模古墳,円筒埴輪,ヤマト王権,首長墓系譜,初期群集墳
サンゴ礁漁撈の民族考古学−ボルネオ島サマによるサンゴ礁漁撈の定量データ分析を通して−
小野林太郎
要旨 琉球列島における先史漁撈研究は近年大きく進展しつつあるが,漁撈の実態的な側面を対象とした研究は未だ限られている。これに対し本稿では,琉球列島と同じくサンゴ礁が発達するボルネオ島東岸域におけるサマの漁撈活動を対象として得られた定量的データを中心に,サンゴ礁漁撈が(1)サンゴ礁の地形変化や風,潮汐サイクルによる制約を強く受けていること,(2)各漁法と対象漁獲種の関係においては,考古学的に同定された魚科のみでなく,その個体サイズを考慮した上で漁法を推定する必要性があること,そして(3)漁法の漁獲効率においては網漁の効率がもっとも高くなることを指摘した上で,民族考古学アプローチによる琉球列島先史漁撈研究への応用の可能性について論じる。
キーワード 民族考古学,サンゴ礁漁撈,琉球列島,定量的データ,サマ
先史人種論争と考古科学史−明治時代から第二次世界大戦期を中心として−
富岡直人
要旨 本稿は,黎明期の日本考古学史に触れた富岡(2004)「黎明期の日本考古学と科学教育」の続編で,第二次世界大戦期までの研究史を論じるものである。黎明期に洋学移入的側面を持った日本考古学が,日本的学風を確立し,さらに国体論・国粋運動と共振し日本民族の輪郭を先史時代に追求し続けた第二次世界大戦前後までの学史に言及する。中でも近代考古学が最重要課題として論究した先史人種論争を基軸に,日本考古学史を科学史の視点より整理した。また,現在の日本での考古科学の停滞が,この時期の考古学・人類学での停滞現象と同根と考え,この時期の学史が十分に反省されていないことが,現在的問題であることを指摘した。
キーワード 日本先史人種論争,日本人類学史,日本考古学史,日本科学教育史,日本考古科学史
書 評
用田政晴著『琵琶湖をめぐる古墳と古墳群』
北條芳隆
岡村秀典著『中国文明 農業と礼制の考古学』
小笠原好彦
エッセイ・考古学との対話
龍と特殊器台
狩野 久
考古学の新地平
変革期の考古学者(4) 現代社会と積極的に関わっていく考古学を目指して
松田 陽・岡村勝行
史跡公園は今・保存と活用への新たな動き
日本で最初に復元した弥生集落の再整備−静岡県登呂遺跡−
岡村 渉
日本の遺跡・世界の遺跡
栃木県矢板市高原山黒曜石原産地遺跡群剣ヶ峯地区遺跡
石川 均(矢板市教育委員会)
フランス ヴォフレイ遺跡・グロット16遺跡
坂下貴則
会員つうしん