目次
第56巻 第2号(通巻222号)
2009年9月
展 望
箸墓古墳の炭素14年代考
新納 泉
韓国の若き研究者たちのまなざし—発掘現場検討会での議論—
大庭重信・別所秀高・井上智博
埋蔵文化財行政と資格制度—「埋蔵文化財の資格制度を考える」関西シンポジウムに参加して—
土井基司
考古学研究会第55回総会研究集会報告(上)
古人骨資料から見た縄文時代の社会集団
舟橋京子
要旨 古人骨を用いて縄文社会の親族関係・社会集団に言及した先行研究の再検討を行い,抜歯風習研究成果を含めどのような社会復元が可能であるか検討した。先行研究の再検討の結果,親族関係に関しては後期関東及び晩期西日本は双系の可能性が高く,社会集団に関しては①多数再葬墓に関しては複数の血縁集団が含まれ②一般墓地に関しては埋葬群が出自集団/氏族に対応しており③特殊墓地に関しては埋葬群が出自集団/氏族の代表者の可能性が考えられるというのが現時点での研究の到達点であることを指摘した。抜歯風習からは,少なくとも晩期の縄文社会においては多様なソダリティーが存在していた可能性を指摘した。加えて,縄文晩期抜歯風習の東西差の背景には諸社会集団内での各ソダリティーの相対的重要度の差が存在する可能性を指摘した。
キーワード 縄文社会,古人骨,親族関係,社会集団,抜歯風習
縄文・弥生時代の祖先祭祀と親族組織
設楽博己
要旨 縄文後期の再葬人骨の mtDNA 分析により,母系制の親族組織が復元されているが,父系制的傾向が強い双系制の可能性がある。父系制的傾向の強まりは,気候寒冷化などを背景とした居住集団の分散化と再統合に伴い,狩猟場など様々な財産を祖先の系譜を通じて円滑に継承することを目的に進行し,狩猟活動の活発化がそれを促した。弥生中期の男女合葬再葬人骨は,縄文晩期の墓地構成原理の継承から血族と見なされる。北部九州では,この時期男女の対偶葬が顕著で,男女は夫婦の可能性がある。農耕文化と大陸文化が影響した結果で,東日本に男女一対の偶像が出現するのもその余波である。したがって,弥生再葬墓の男女も夫婦の可能性が捨てられない。弥生再葬墓は,縄文時代の再葬の役割を引き継いだ祖先祭祀による集団統制機能をもっていたが,弥生中期中葉に居住集団の再統合と地縁的結合が進行した結果,その意義を失い消滅した。
キーワード 縄文・弥生時代,再葬,祖先祭祀,出自規制,親族組織
論 文
北海道における縄文時代中・後期の「平地住居跡」とその暦年代
村本周三
要旨 縄文時代中期末・後期初頭の東日本では,集落の変質,土器の地方色の顕在化といった現象がみられる。本稿では,北海道東部地域における縄文時代中期末から後期初頭の平地住居跡出土炭化材の14C年代測定を行い,3920〜367514C BP の測定結果を得た。また,既報告の年代測定結果と対照し,道東におけるトコロ6・5類の境界である3850Cal BC 頃が東北地方における型式の画期とおおよそ一致することを明らかにした。北筒式分布圏でみられる集落の変質や,土器の地方色の顕在化も,東日本の現象と同時期であることを確定したことにより,その時期に平地住居が顕著にみられることは注目すべきことであると考える。
キーワード 平地住居跡,火災住居跡,14C年代,土器編年,較正年代
古墳時代中期における韓式系軟質土器の受容過程
中久保辰夫
要旨 本稿では,朝鮮半島南部に由来する韓式系軟質土器の受容過程について検討を行った。分析手法としては,畿内地域の煮炊器を対象に韓式系軟質土器,土師器の使用面・製作技術面を整理し,これまで「土師器化」とよばれてきた土器群の内容を明らかにした。また,古墳時代中期における布留式系甕についても,古墳時代前期からの変化を指摘した。こうした両系統の土器とその折衷土器の様相をまとめなおした上で,土器様相を集落単位で比較した結果,韓式系軟質土器をすみやかに受容する集落,韓式系軟質土器の影響を受けつつ在来の煮炊器が徐々に変容する集落と,外来の調理様式や土器製作技術の受容過程に集落差が表れることが明らかになった。そして,こうした受容過程の違いを外来と在来の集団間の交流関係が異なるためと解釈した。
キーワード 古墳時代中期,韓式系軟質土器,土師器,渡来系集団,集団関係
研究ノート
縄文時代初頭の石材消費と移動形態
藤山龍造
要旨 先土器時代から縄文時代へ突入すると,先史人類の移動形態は大きく再編されてゆく。とりわけ,隆起線文土器群の段階に前後して,人々の生活圏は著しく縮小することになる。こうした状況を踏まえたうえで,本論では,それに継起する展開を明らかにすることを目指した。なかでも注目したのは,隆起線文土器群に後続する段階を迎えて,石器石材が広域に運搬され,消費される点である。関連する諸々の情報を考慮すれば,これは当時の移動形態と密接に関連している可能性が高い。すなわち,人々は特定の地点に拠点を定めて生活しつつも,ときに広域の移動を交えていることが予測されるのである。
キーワード 先土器時代,縄文時代,狩猟採集民,移動形態,資源開発
新刊紹介
白雲翔著・佐々木正治訳『中国古代の鉄器研究』
考古学の新地平
考古学と文献史学(2)渡来人研究と考古学・文献史学
田中史生
史跡公園は今・保存と活用への新たな動き
大地が謳う歴史の物語を聞くところ—西都原古墳群—
北郷泰道(宮崎県立西都原考古博物館)
日本の遺跡・世界の遺跡
京都府与謝野町日吉ヶ丘遺跡
与謝野町教育委員会
ドイツ連邦共和国 ネアンデルタール
広瀬繁明