目次
第56巻 第3号(通巻223号)
2009年12月
展 望
近藤義郎さんの逝去を悼む
新納 泉・菱田哲郎
特集 イギリスの考古学の授業
矢野健一・酒井友梨佳・井上あい子
"酸素同位体ステージ3の考古学"の推進
小野 昭
マスコミ考古学の虚実—出雲市「最古の旧石器」をめぐって—
稲田孝司
「市町村埋蔵文化財行政巡検会」神奈川ラウンドに参加して
村松 篤
発掘調査資格制度を比較する
野崎貴博・岸本道昭・澤田秀実
考古学研究会第55回総会「現代社会と考古学」講演
近代日本の文化財と陵墓—政治や社会との関わりにおいて—
高木博志
考古学研究会第55回総会研究集会報告(下)
近畿地方弥生時代の親族集団と社会構造
藤井 整
要旨 近畿地方における親族集団は,夫婦を基軸とする家族であり,世帯の自立が進んだ社会において父系化が進行し,それゆえ財の継承が可能となった先進的な社会であるとされてきた。しかし,性別や年齢といった形質人類学的成果と墓域における階層構造といった考古学的成果の再検討から,近畿地方においては,夫婦を基軸とした埋葬は認められず,父系制の成立を跡づけるものもないと結論づけた。また,社会的成熟年齢を迎えていない乳児のあり方や複数埋葬の方形周溝墓における小児埋葬のあり方から,生得的な地位は未成立であり,むしろ年齢によって個人の地位が変化する年齢階梯制社会でもあったと位置付けた。近畿地方の弥生社会は,前期段階から階層分化していたが,世襲の動きは必ずしも成功せず,年齢や社会的役割の変化によって,階層間の移動が生じる閉鎖的・排他的ではない社会であったと評価した。血縁関係を基礎とするこうした集団のあり方は極めて部族的であるが,階層化が進み世襲を意図する動きが認められるなど首長制の側面ももつ不平等社会であったと評価した。
キーワード
弥生社会,親族組織,メンバーシップ,世襲制,年齢階梯制
古墳時代における父系化の過程
清家 章
要旨 古墳の埋葬原理研究から父系化の過程を明らかにした。父系化の画期は2回認められる。中期初頭と中期後葉である。中期初頭には首長クラスはおおむね男性が地位を継承する。中期後葉には首長位の男性化が完成し,非首長層も父系に傾く。ただし,非首長層では女性家長も一定程度存在するので父系化は貫徹しないと主張した。
以上のような主張を,首長系譜の変動と首長の性別のあり方を通して具体的に検討した。そこではとくに中期になると首長墳が連続的・計画的に築造されることがあり,それは父系的世襲集団が存在している可能性を示すとの見解を提示した。
キーワード
古墳時代,父系化,親族関係,埋葬原理
論 文
前方後円墳廃絶期の暦年代
新納 泉
要旨 日本の古代国家の形成過程において,6世紀後半から7世紀前半にかけては,前方後円墳が廃止され寺院の建立が始まり大きな社会的変革がなされた時期であり,他の時代にもまして重要な意味をもっているといえる。しかし,この時期の古墳の暦年代に関して,場合によっては半世紀をこえる見解の相違が生じてきており,古墳から政治的なプロセスを復元するうえで無視できない問題となっている。本稿では,奈良県牧野古墳の被葬者を押坂彦人大兄と考え7世紀初頭の年代を与える暦年代観に対して横穴式石室や須恵器の編年から検討を加え,そこに多くの問題が存在していることを指摘した。また,兵庫県箕谷2号墳出土の戊辰年銘大刀を668年の製作とする近年の主張に対しても,牧野古墳の年代を前提としたものであって伴出する須恵器の年代に無理があることを論じた。
キーワード
前方後円墳,暦年代,牧野古墳,横穴式石室,須恵器
研究ノート
古墳のデジタル測量と空間データ処理—岡山市・造山古墳のデジタル測量の成果から—
寺村裕史
要旨 日本考古学において,GIS(地理情報システム)のアプリケーションを用いて,データの取得から等高線図の作成や空間分析まで,全てデジタルで処理する事例が増えつつある。そうした一方で,なぜデジタルデータを用いるのかといった根本的な問題から,デジタルで空間データを処理する過程において,どのような方法があり,またその方法の違いによって結果がどのように異なるのかといった議論は,まだほとんどなされていない。
そこで本稿では,岡山市・造山古墳のデジタル測量調査の成果を用い,GPS
やトータルステーションを使用し計測した空間データの処理過程に着目して,出力される結果の相互比較や表現された地形の「精度」について考察し,古墳時代研究ひいては日本考古学へ援用可能となるような今後のデジタル測量のあり方に関して
展 望
を述べる。
キーワード デジタル測量,TIN
モデル,空間内挿,DEM,等高線図
群集墳被葬者層における須恵器の流通について
木許 守
要旨 先行研究によれば,首長墳に副葬される須恵器には当初から供給先が予定されて製作されたものもあったと考えられる。しかし群集墳出土須恵器など圧倒的多数の須恵器については同様には考えがたい。小稿は,この問題を考えるための基礎作業として巨勢山古墳群の木棺直葬墳出土例を検討した。結果,木棺直葬墳被葬者層も必要に応じて須恵器を入手・調達することが一定程度可能であったと推定する。このような物資流通のあり方は,威信財のそれとは異なるものである。
キーワード
古墳時代後期,須恵器,流通,群集墳,木棺直葬墳
書 評
若狭 徹著『古墳時代の水利社会研究』
坂 靖
坂 靖著『古墳時代の遺跡学—ヤマト王権の支配構造と埴輪文化—』
若狭 徹
考古学の新地平
考古学の新地平
考古学と文献史学(3) 前方後円墳の時代の「共有の論理」
大平 聡
地域情報
長崎だより
松見裕二
日本の遺跡・世界の遺跡
三重県明和町史跡斎宮跡
大川勝宏(斎宮歴史博物館)
西アフリカ セネガル シヌ・サルーム貝塚群
松井 章
委員会の窓