<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第61巻 第2号(通巻242号)
2014年9月
お知らせ
展 望
- アムール川流域における先住民村落の景観史
- 大西秀之
考古学研究会第60回総会講演
- 世界から見た日本考古学――中国とカナダからのまなざし
- 秦 小麗
考古学研究会第60回研究集会報告(上)
- 世界の中の縄文文化 ―国際化への布石―
- 瀬口眞司
要旨
論点を2つ設ける。論点1は縄文文化論の国際化の必要性である。より多様な観点を確保するために,また我々が我々の望む形で世界に認識されるために,これは必要である。
論点2は国際的に相対化した場合の縄文文化像である。縄文文化は獲得経済を基盤とするが,定住生活の開始と共に新石器時代に移行した。ただし,それは第1段階と呼ぶべきもので,社会の質的変換は顕在化していない。質的変換の萌芽は水田農耕導入期にあり,以降が新石器時代の第2段階に相当する。世界の狩猟採集民と比較した場合,第1段階に社会の質的転換を顕在化させなかった理由・背景が次の論点となる。これについては,従来の発展段階論的な観点に加えて,人間の意志による選択に焦点を当てた観点からも改めて議論すべきである。
キーワード 縄文文化,国際化,新石器時代,狩猟採集民,水田農耕
- 世界の中の弥生時代―弥生文化の特質―
- 長友朋子
要旨
要旨 日本考古学の「国際化」を念頭に,弥生時代の特質について論じることが本論の課題である。弥生文化は中国,韓国,日本の研究者によって,それぞれの立場から古くから議論されており,その意味ですでに「国際化」した研究対象であるものの,交流史が中心であり,自国史の延長である場合が多い。しかし,中国と韓国における資料と研究が蓄積された現在,本格的な比較考古学的研究が可能な段階にある。そこで,本論では,比較考古学的な視点から,漢の周辺地域としての日本列島と朝鮮半島の差異と共通性について検討した。その結果,次のような点が指摘できた。朝鮮半島南部と北部九州は漢の冊封体制下にあったが,漢の待遇は異なっていた。漢から厚遇されていた北部九州は中国政体の弱体化の影響を強く受けるが,朝鮮半島ではその影響が少ない。また,北部九州以東では紀元後1世紀以降の新たな交流網の形成が指摘されているが,政治的意図を介在しないことが判明した。さらに,漢とその周辺地域という関係に対する比較として,ローマとその周辺地域の関係を,主に土器とその生産から検討した。そして,漢から周辺地域へ技術が,時間をかけながらリレー式に伝播するのに対し,ローマから周辺へは,窯などの技術がもたらされても後世に続かない場合があることを指摘した。同じく中心周辺関係を形成していても,東アジアとヨーロッパでは技術の伝播を含め,異なる状況にあることがわかった。
キーワード 比較考古学,中心周辺関係,漢,ローマ,土器生産
論 文
- 内折口縁土器について―長門西部における弥生時代前期末~中期初頭の様相―
- 田畑直彦
要旨
内折口縁土器は,弥生時代中期初頭~中葉において,主に長門西部から周防西部にかけて分布する土器で,壺・甕の口縁部を受口状に立ち上げることを特徴とする。また,この土器は綾羅木郷遺跡が位置する川中地域では少なく,周辺地域で多く分布する。以上の状況や土器の特徴,遺構における共伴関係から,内折口縁土器は,中期初頭に川中地域を中心に城ノ越式土器が流入し,長門西部全域が大きな影響を受けた結果出現したものと考えた。一方,川中地域では,弥生時代中期に高潮もしくは津波により生じた可能性がある一時的な海面上昇があったとされるが,検討の結果,これは中期初頭に生じ,遺跡の消長にも反映された可能性が高いことを指摘した。
キーワード 長門西部,弥生時代中期初頭,内折口縁土器,城ノ越式土器,海面上昇
- 弥生時代後期・終末期の勾玉からみた地域間関係とその変容 ―西日本の墓出土資料を中心に―
- 谷澤亜里
要旨 本稿は,弥生時代後期から終末期における勾玉の流通様態を検討し,当該時期の社会動態との関連を考察するものである。弥生時代後期~終末期の勾玉を生産時に付与される属性から分類し,各分類単位の分布を通時的に検討した。その結果,弥生時代後期後半から終末期に勾玉の種類が増加し,多様な種類がモザイク状に分布するようになることが明らかとなった。以上より,この時期には各地域において勾玉の他地域からの入手と生産が複合的に行われたと考えた。また,各地における墳丘墓の展開と勾玉の副葬状況に一定の相関がみられた。このような現象の背景に,各地の上位層が形成する広域的なネットワークにおける相互参照を想定した。
キーワード 弥生時代後期,勾玉,流通,地域間関係,西日本
書 評
- 杉山浩平著『弥生文化と海人』
- 柴田昌児
- 大西秀之著『技術と身体の民族誌―フィリピン・ルソン島山地民社会に息づく民俗工芸―』
- 石村 智
新刊紹介
ココが聞きたいッ! 考古学の最前線
- パブリックと考古学のあいだで
- 村野正景(聞き手:山下大輝・福島 栞・石村 智)
考古フォーカス
- 岩手県野田村 平清水Ⅲ遺跡の発掘調査
- 野田村教育委員会 井上雅孝
例会レポート
- 岡山7月例会
関西例会ミニシンポジウム『被災地の考古学~東北派遣職員の証言~』
- 横田 明・安井宣也・池田征弘・鈴木久史・甲斐昭光・古川 匠・山本 誠・岡村勝行
委員会つうしん・会員つうしん