<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第62巻 第2号(通巻246号)
2015年9月
考古学研究会常任委員会声明
国立大学における人文社会科学系分野のあり方をめぐる議論について
展望
- 御廟野古墳(天智天皇山科陵)の立入り観察参加記
- 杉本 宏
- 高松塚古墳・キトラ古墳壁画保存修復作業の特別公開(第3回)に参加して
- 高田健一・杉本 宏
- 月の輪古墳とともに62年
- 角南勝弘
- 【連載企画】 アートな考古学の風景 ①「アートと考古学」ってなに?
- 村野正景・岡村勝行
考古学研究会第61回総会研究集会報告(上)
- 酸素同位体比年輪年代法がもたらす新しい考古学研究の可能性
- 中塚 武
要旨 年輪の幅の代わりに年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比を年輪年代決定に用いる酸素同位体比年輪年代法は,樹種の違いに依らず,少ない年輪数でも年代決定に至る,新しい年輪年代法である。年輪の酸素同位体比は,また降水同位体比と相対湿度という2つの気象学的因子を介して,夏の降水量を精度よく復元できる新しい古気候指標でもある。これまでに日本各地で,最大4300年前まで年単位で遡れる酸素同位体比の標準変動曲線(マスタークロノロジー)が作成されてきており,その時空間被覆率は現在も拡大し続けている。マスタークロノロジーは,既にさまざまな古建築材や考古木質遺物の年輪年代決定に利用され始めており,従来の年輪年代法と同じ統計学的な手続きで,年代決定の信頼度を保証できることが分った。しかし酸素同位体比年輪年代法には,化学的劣化によりセルロース繊維が消失した木材には適用することが難しく,従来の年輪年代法や放射性炭素年代法よりも資料の破壊の程度が大きいという欠点があることも明らかになってきた。酸素同位体比のマスタークロノロジーが示す夏の降水量の変動パターンからは,弥生時代や古墳時代の末期に,数十年周期での降水量の変動振幅が拡大し,洪水や干ばつの長期化に伴ってさまざまな深刻な社会応答が生じた可能性が指摘できる。今後,そうした降水量の変動に対して,当時の人々がどのように治水や利水の工事,集落の移転などの対応を行ったかを,酸素同位体比を用いた水田の板材や水路の杭材,竪穴住居の柱材などの年輪年代決定によって,年単位で比較していくことで,先史時代の気候変動と社会応答の関係について,全く新しい研究を進めて行くことが可能になる。
キーワード 年輪年代法,酸素同位体比,セルロース,気候変動,降水量
- 更新世から完新世への推移と人間活動 ―学際研究の現状と課題―
- 藤山龍造
要旨 本報告が目標とするのは,学際研究の現状と課題を整理し,そこから考古学の将来像を展望することである。この意味では,むしろ副題を重視した議論である。
近年の考古学は異分野との連携をこれまで以上に強めており,単独では困難な領域へと足を踏み入れている。これからも越境的な研究が新たな世界を切り拓いてゆくことは間違いあるまい。とはいえ,その一方で,ある種の“綻び”も目立ち始めている。なかには関連分野の成果を都合良く理解し,充分な準備なく考古事象へと短絡するなど,いささか性急な議論も散見されつつある。それらは見かけの上では斬新に映るが,真に健全な連携とは言い難い。
今般,報告者は“環境変化と人間活動”なる主題を授かり,将来的な学際研究に向けて次の2点を提案した。⑴古環境復元や年代測定を含めた各種成果を有効に活かすためにも,まずは考古学の基本手続きこそ地道に進めるべきではないか。⑵一方的な借用に陥ることなく,むしろ考古学が一体となった基礎研究を優先すべきではないか。これらの課題を前向きに乗り越えるなかで,学際研究はさらなる高次に辿り着くはずである。
キーワード 考古学の将来像,学際研究,自然環境,年代測定,分析科学
- 考古学的手法を用いた火山災害研究 ―10世紀の巨大噴火と東北地方北部における人間活動―
- 丸山浩治
要旨 考古学的手法による火山災害研究の現状と問題点を再整理し,より広域的・総体的に展開するための方法を述べた上で,10世紀の東北地方北部における2 つの広域テフラを用いた研究事例と成果を提示した。現代考古学においてテフラ検出の重要性は一般化しているが,火山災害研究の進展は一部に限られ,降下テフラを用いた広域での議論は遅滞している。その原因は,年代決定指標としてのテフラに対する堆積学的な限界感にあり,それを解消するには統一基準による悉皆的な再整理が必要であること,それがおのずと広域研究すなわち総体的な火山災害研究につながることを論じた。手法自体は古典的であるが,火山学・考古学単体では言及不可能な「災害としての火山噴火イベント」を語ることのできる方法であり,両学問をつなぐ学際的研究といえる。
キーワード 10世紀,東北地方北部,テフラ,堆積様相,火山災害研究
論文
- 縄文土偶の終わり ―東北地方北部・弥生時代土偶の編年―
- 金子昭彦
要旨 東北地方北部の弥生時代の土偶について,最新の土器型式編年研究の成果に学び,連続性を重視して編年を試みた。当該期の土偶と分かるものは,結髪,刺突文土偶のいずれかに含められ,両者とも,前期末に多様化した後中期に激減する。結髪土偶は,西北域(津軽地方中心)と南東域(北上川中下流域中心)で異なり,南東域では中期初頭の早い段階で消滅する。西北域では中期中葉まで存続するが,その後忽然と消え,逆に,中期後葉に南東域で西北域のそれと連続性のある土偶が出現し,後期前葉の仙台平野で消滅する。最後は,あたかも米のとれる場所を追いかけていくかのようである。
キーワード 東北地方北部,弥生時代,結髪土偶,刺突文土偶,消滅
書評
- 大坪志子著 『縄文玉文化の研究 ―九州ブランドから縄文文化の多様性を探る―』
- 水ノ江和同
- 川畑 純著 『武具が語る古代史 ―古墳時代社会の構造転換―』
- 豊島直博
- 津野 仁著 『日本古代の軍事武装と系譜』
- 橋本英将
新刊紹介
- 北東北古代集落遺跡研究会編 『9~11世紀の土器編年構築と集落遺跡の特質からみた,北東北世界の
実態的研究』
- 瀬川拓郎
考古学研究会創立のころ
- 喜谷美宣さんに聞く/考古学研究会,岡山と私
- 聞き手:濱田延充
考古学研究会との出合い
考古学研究会創立60周年記念企画「会誌でみる考古学研究会の60年」(2)
考古フォーカス
- ベトナム ハイフォン市チャンケン遺跡
- Nguyễn Thi ̣Kim Dung・吉田泰幸
- 広島県庄原市佐田谷墳墓群の発掘調査
- 庄原市教育委員会
例会レポート
岡山5・7月例会を開催しました!
関西例会参加記
たより
- 鳥栖市立図書館に文化財常設展示コーナー新設
- 徳富孔一
委員会つうしん・全国委員つうしん
会員つうしん