目次
第62巻 第3号(通巻247号)
2015年12月
展望
- 栗原市入の沢遺跡シンポジウムに参加して ―列島東北部の歴史に新たな光をあてる注目遺跡のこれから―
- 西川修一
- 岡山市百間川分流部の江戸時代治水遺跡とその保護
- 稲田孝司
- 政治に翻弄される世界遺産 ―2015年,ドイツ(ボン)における第39回世界遺産委員会の報告―
- 中村俊介
- カナダ・トリケット島における先史時代遺跡の調査
- 真貝理香・菅野智則・山本直人・羽生淳子・松井 章・Duncan McLaren・Dale R. Croes
- 火打石研究の展望
- 小林 克
- 日本考古学の国際化に思う
- 河村好光
- 【連載企画】 アートな考古学の風景 ②復元イメージの揺らぎとリアリティ
- 安芸早穂子
考古学研究会第61回総会講演
- 環境変動と考古学研究
- 甲元眞之
要旨 環境変動に大きな影響をもたらす気候変動は,太陽から供給されるエネルギーの多寡により惹き起こされる。太陽の活動が不活発であると寒冷化し,海水準が下降して沿岸部に砂丘が形成される。太陽の活動が活発となると海水準が上昇して海浜からの砂の供給が停止し,植物が繁茂してクロスナ層を形成する。このクロスナ層に含まれる考古学的資料を分析することで,気候変動の時期を把握することができる。この環境変動に当時の人々がどのように対処したかはハックスリーやチャイルド説に従って,環境適応の内実(多様性)とレヴェル(社会進化の段階)を検討する必要がある。
キーワード 環境変動,砂丘形成,チャイルド,環境適応,社会進化
考古学研究会第61回総会研究集会報告(下)
- 水田遺跡の調査をめぐる学際的アプローチ
- 江浦 洋
要旨 水田遺跡をめぐる学際的研究は古く登呂遺跡を嚆矢とする。
筆者はかつて池島・福万寺遺跡(大阪府八尾市・東大阪市)において,水田遺跡の発掘調査に関わった。その調査過程とその後の研究において,人類学者や水生生物研究者等と接することによって,偏狭な知識にとどまることなく,新たな視座を見出すに至っている。水田遺跡をめぐる学際的アプローチは多岐にわたるが,ここでは筆者が関係した「足跡」,「稲株痕」,「水田漁撈」などの事例を中心にその模索過程を含めて提示している。
近年では,全国各地でほぼ当たり前のように水田遺跡の発掘調査が行われ,調査事例は蓄積されてきているが,継続的な学際的研究はさほど深化していない。関連諸分野との共通認識や尺度の統一なども重要であるが,まずは現場に立つ発掘調査の担当者の問題意識とこだわりに帰結する。
キーワード 足跡,人類学,稲株痕,水田漁撈,学際的研究
- 炭素14年代の検証と倭国形成の歴史像
- 岸本直文
要旨 AMS法による土器付着炭化物のC14年代計測は,弥生時代から古墳時代へ推移する時期の,とくに庄内式土器の年代観について,これまでの見方より大きく遡上する蓋然性を示す。こうした年代の妥当性,あるいはC14年代計測の有効性を検討するために,墳墓から出土した中国鏡を用いて,考古学的な方法にもとづいて,各時期の土器の年代を絞ることを試みた。その結果,C14による年代観と齟齬がないことが確認できた。庄内式の始まりについてはなお確定できないものの,2世紀前半にさかのぼると考えられる。これをもとに,弥生時代後期と庄内式期の考古学的事象,同時代の中国鏡の分布,また文字資料をあわせ,北部九州と東方世界の力関係の転換が100年頃にあったことを主張する。
キーワード C14年代,庄内式土器,後漢鏡,倭国,倭国王帥升
論文
- 粘土槨の展開過程とその画期 ―畿内の事例を中心に―
- 上田直弥
要旨 粘土槨は古墳時代に多く見られる埋葬施設であるが,竪穴式石室に比べるとその研究は,特に全体構造に関する分析が不足している状況であった。そこで本稿では最新の発掘調査事例を基に,主に出現期の事例に焦点を当て,その構造の変化過程について検討を行った。その結果,粘土槨の成立にあたり特に南河内地域における組合式木棺の採用が深く関係しており,古墳時代前期後半の葬制について,伝統的な秩序からの大きな変革があったと考えた。また,前期には様々な規模,構造の粘土槨が併行して展開していた一方で,中期になると急激な画一化が起こる事から,中期開始以降における,埋葬施設に関する強い規制の存在を想定した。
キーワード 古墳時代,粘土槨,組合式木棺,南河内,儀礼景観
書評
- 佐藤由紀男編 『弥生土器(考古調査ハンドブック)』
- 石黒立人
- 廣瀬 覚著 『古代王権の形成と埴輪生産』
- 城倉正祥
考古学研究会創立のころ
- 都出比呂志さんに聞く/考研とともに歩んだ研究と運動
- 聞き手:岡村勝行・福永伸哉
ココが聞きたいッ!考古学の最前線
- 文化庁の仕事からみた文化財行政と考古学
- 禰冝田佳男(聞き手:于朮・高部由夏・寺前直人)
考古フォーカス
- 岡山県総社市 神明遺跡の発掘調査
- 岡山県古代吉備文化財センター
- トルコ共和国カイセリ県 セニル・スルトゥ,テクネカヤ・ホユック遺跡
- 山口雄治
例会レポート
岡山例会第20回シンポジウム「楯築墓成立の意義」を開催しました!
全国委員つうしん・会員つうしん