目次
第63巻 第2号(通巻250号)
2016年9月
展 望
- 特集 遺跡・ナショナリズム・先史学─フランス考古学の歴史から─
- 序論
- 坂野 徹
- フランスにおける考古学─モノと言葉の略史(18世紀末~1945年)─
- ロラン・ネスプルス
- フランスにおける考古学の発展と制度化
─先史考古学,原史考古学,そして古代考古学の関係について(19~20世紀)─
- アルノ・ナンタ
- アンリ・ブルーユ神父(1877~1961)─20世紀初頭フランスにおける先史学の道─
- ノエル・コーユ
- 平成28年(2016年)熊本地震による文化財被害および今考えること
- 杉井 健
- アンスロポシーンの行方
- 瀧川 渉
- 西瀬戸内に伝わった山田寺式軒丸瓦
- 妹尾周三
- 【連載企画】アートな考古学の風景 ⑤アートと考古学の協働を複数化する
- 佐藤啓介
考古学研究会第62回総会講演
- 食の多様性と気候変動―縄文時代前期・中期の事例から―
- 羽生淳子
要旨 本稿において,筆者は,「考古学は,人間と環境との相互関係についての学際的な議論に,積極的に貢献することが可能な学問分野である」と提案する。論文の前半では,食と生業の多様性,およびその他の文化要素を,人間社会の長期的な持続可能性とシステムのレジリエンス(復元力)という観点から考察し,これらの因果関係を検討するにあたっての理論的基盤を説明する。論文の後半では,縄文時代前期後半~中期(約5900~4400年前)における北東北地域の考古資料を用いて,食と生業の多様性,その背後にある人口規模の変化,およびその他の文化的要因と,気候変動を含む環境との間の因果関係を検討する。
キーワード 食の多様性,生業,縄文,気候変動,レジリエンス
考古学研究会第62回総会研究集会報告(上)
- 地形発達と耕地利用からみた弥生・古墳時代の地域社会―河内平野南部を対象に―
- 大庭重信
要旨 層位学・堆積学的発掘調査に基づいたジオアーケオロジーの手法によって,弥生時代から古墳時代にかけての河内平野南部地域の古地形を7時期に分けて復元し,この間の集落動態を検討した。特に居住域と生産域の関係に注目してこのまとまりを集落活動領域と呼称し,この構成内容と領域規模を検討した。その結果,河川活動による地形変化に呼応して集落活動領域も変化するが,なかでも弥生時代前期,後期後半,古墳時代中期後半の3時期に大きな画期が認められ,水稲農耕を基盤とする農耕集落が人間側の社会的要因によって変質していったことを示した。特に古墳時代中期後半には居住域と生産域の分離が進み,集落活動領域が拡大することから,この時期に実質的な地域社会の形成が進んだと考えた。こうした領域内で,大規模な水田を営むための広域での河川制御や,大和川水系の埋積に伴う水運ルートの開拓が進められた。
キーワード ジオアーケオロジー,集落活動領域,河川地形,水田
- 古代浜名湖周辺にみる自然の変化と社会の変容
- 後藤建一
要旨 太平洋に面する静岡県は,これまで幾度となく,地震による津波に襲われてきた。東日本大震災のように巨大地震津波は,広範囲に被害を及ぼすだけでなく,沿岸低地の水没などの地形変化も引き起こす。事実,浜名湖の湖口付近の地形は,明応7年(1498)に起こった連動型地震津波によって,浜名湖南部が水没して外海と通じ,現在の汽水湖となったのである。奈良時代の当該地を知るに,天平12年(740)の正倉院文書『遠江国浜名郡輸租帳』がある。輸租帳に新居郷と津築郷を記すものの,承平年間(931~937年)成立の『和名類聚抄』高山寺本では,両郷を欠く。浜名郡の条里制遺構を検討した歌川学氏は,新居郷・津築郷を和名抄に記載しなかったのは,奈良時代末から平安時代初期の浜名湖岸線が水没したためとした。考古学から向坂鋼二氏も,浜名湖南岸に点在する湖底遺跡の存在から,7世紀末頃から奈良時代の浜名湖南部が広く陸地化していたことを実証した。本報告では,所在する国内屈指の湖西窯跡群をはじめ各遺跡と輸租帳姓名を照合し,湖西窯跡群生産を主導した神直らのミワ氏族を抽出した。さらに,6世紀,7世紀の窯業生産の構造変化を復元した。
キーワード 古代,浜名湖,地形変化,生産構造
研究ノート
- 煉瓦の規格比定による旧池田トンネル竣工年代の推定
- 武内雅人
要旨 近代を考古学が扱う事例が増加しており,普遍的な構造材であった煉瓦の編年的研究を充実させる必要がある。先行研究により,明治には様々な規格の煉瓦があることや,その使用年代が判明してきた。煉瓦の規格がわかれば遺構の年代決定が期待できるが,誤差が大きく簡単ではない。本稿では,和歌山―大阪間にある旧池田トンネルを素材に,許容誤差を考慮した煉瓦の規格比定をおこない,その竣工年を明治33年(1900)と推定した。
キーワード 近代考古学,煉瓦の規格性,旧池田トンネル
書 評
考古学研究会創立60周年記念企画 「会誌でみる考古学研究会の60年」 (4)
考古フォーカス
- フランス バルヌネズ墳墓とヨーロッパ巨石文化
- ロラン・ネスプルス
- 宮城県大崎市 北小松遺跡の発掘調査
- 小野章太郎(宮城県教育委員会)
例会レポート
全国委員つうしん