目次
第63巻 第3号(通巻251号)
2016年12月
展望
- 特集 第8回世界考古学会議京都大会(WAC-8)から考える1
- WAC-8:どのような大会であったのか
- 岡村勝行
- 世界と繋がる日本考古学─WAC-8に思うこと─
- サイモン・ケイナー
- フクシマから考える災害と文化遺産
- 菊地芳朗
- 日本考古学は海外研究者にどうみられたか
- 木村啓章・橘 泉
- 【連載企画】近・現代の戦争遺跡 ①近・現代の戦争遺跡と考古学研究の役割
- 高田健一
- 第12回「土の建築」世界会議(TERRA)参加録
- 市川 彰
- 考古学研究会関西例会200回記念シンポジウム
「土器編年研究の現在と各時代の特質―須恵器生産の成立から終焉まで―」参加記
- 肥田翔子
考古学研究会第62回総会研究集会報告(下)
- 縄文時代の環境変動と植物利用戦略
- 小畑弘己
要旨 「縄文文化の高揚」と称される縄文時代中期の中部高地,とくに八ヶ岳山麓の縄文中期の繁栄は,クリ・マメ類の栽培で支えられていた。この二種はこの地域の気候に適合した植物であり,栄養価も高く,しかも長期保存が可能である。栽培という行為によってこれら植物の可食部の増量・増産が可能となり,その保存性の高さとともに扶養人口の増加に大きく寄与した。しかし,特定種への食料依存という生業形態そのものが環境変化に対する耐性が低い上に,技術の未発達な段階での栽培はその収量を栽培植物の耐性に大きく依存しているため,気候や環境の変化が栽培植物の耐性の限度を越えた瞬間に,社会の耐性も尽きたものと考えられる。
キーワード 環境変動,植物利用戦略,植物栽培,クリ・マメ類,縄文時代
- 奄美・沖縄諸島貝塚時代における社会組織の変遷
- 高宮広土
要旨 奄美・沖縄諸島貝塚時代は狩猟採集の時代と考えられており,それゆえこの間の社会組織はバンド社会であったと解釈されていた。本稿ではまず貝塚時代の生業が狩猟採集であったことを確認した。次に同時代の社会組織について検証した結果,以下の事が判明した。まず,貝塚時代前1期〜前3期前半は遊動するバンド社会であったようである。その後は「周期的なあるいは振動する社会進化」が起こっていたが,この時代にグスク時代のような首長社会は出現しなかった。その間劇的な環境変動はなかったようであり,貝塚時代の社会組織の進化の要因を人口増加,長距離交易,自然資源の限界および考古学的には検証することは難しいが「野心家」の能力の限界と考察した。
キーワード 貝塚時代,狩猟採集,社会組織の進化,自然資源,「野心家」
論文
- 縄文時代における注口付浅鉢の成立過程と煮沸具化の意義
- 阿部昭典・國木田大・吉田邦夫
要旨 縄文時代中期末葉に東北地方南部を中心に普及する注口付浅鉢は,それまでの浅鉢とは異なり,注口部が付くだけではなく,煮沸具として使用されるようになる。同時期の東北地方では,複式炉と呼ばれる大形屋内炉が出現して広がり,特に東北南部には「上原型複式炉」と呼称される典型的な土器埋設複式炉が隆盛する。両者は,関連する遺物と遺構であると考えられ,深鉢とは異なる煮沸具が出現するという点で重要である。
本論では,注口付浅鉢の成立過程を詳細に検討するとともに,スス・コゲを中心とした使用痕の観察と分析,炭素・窒素同位体分析,C/N比分析から,深鉢とは内容物が異なる煮沸具であることを明らかにしている。さらには,煮沸具の細分化の意義について検討を深めている。
キーワード 注口付浅鉢,煮沸具,使用痕,炭素・窒素同位体比分析
- 考古学理論の転変と史的背景に関する一試論―欧米考古学を主要な素材としての分析と提言―
- 溝口孝司
要旨 <ポストモダン>と総称される社会編成の複雑化と流動化は,それ以前には所与であった特定の社会編成と特定の世界観,特定の一般理論,一群の特定の方法との緊密な連関を相互変換・相対化可能な目的・概念・指向性・実践方法の給源(プール)に置き換えた。考古学史上はじめて個々の理論・方法使用のメリット/デメリットを純粋に資料とそれをとりまくコンテクスト性,個別研究学史との対比を通じて吟味する「環境」が与えられたのである。この事態は,個々の考古学的営みのすべての選択の局面において参照・考慮されねばならない事柄の複雑性の急激な上昇と相関する。この複雑性にどのように耐え新たな考古学的コミュニケーションの「型」を創出するか,選択肢は開かれている。
キーワード 理論,考古学史,近代,ポストモダン,メタヒストリー
書評
- 有松 唯著『帝国の基層─西アジア領域国家形成過程の人類集団─』
- 下垣仁志
- ランブロス・マラフォーリス著『どのようにモノは心をかたちづくるか―物質関与論―』
- 中川朋美
新刊紹介
- 四條畷市編『四條畷市史』第五巻(考古編)
- 濱田延充
考古フォーカス
- 福岡県 特別史跡「水城跡」―100年ぶりの断面調査―
- 九州歴史資料館文化財調査室 調査研究班
- 神奈川県鎌倉市 長谷小路周辺遺跡の石棺墓
- 降矢順子
例会レポート
委員会つうしん・全国委員つうしん