<考古学研究会事務局>
〒700-0027
岡山県岡山市北区清心町16-37長井ビル201
TEL・FAX 086-255-7840
会誌『考古学研究』
目次
第64巻 第1号(通巻253号)
2017年6月
展望
- 淡輪ニサンザイ古墳(「五十瓊敷入彦命宇度墓」)の立会調査見学参加記
- 河内一浩
- 行燈山古墳の立ち入り観察参加記
- 澤田秀実
- 第49回「建国記念の日」を考える県民のつどい(岡山)参加記
- 古市秀治・村田秀石
- 【連載企画】近・現代の戦争遺跡 ③慶應義塾大学日吉キャンパス一帯の戦争遺跡群
- 安藤広道
論文
- 再生された四隅突出型墳丘墓
- 岩本 崇
要旨
古墳の築造背景に迫る一視角として出雲における前期大型方墳の卓越性に着目し,そこに四隅突出型墳丘墓を復古再生する指向性が存在した可能性を指摘した。
この評価を下すうえでの論拠は,第一に荒島墳墓群における前期大型方墳の特異な墳丘に四隅突出型墳丘墓との類似を指摘できるが,築造にかかわる秩序の共有
までは想定しがたいこと,第二に築造時期に懸隔が介在し,時期的な連続性がみとめられないことである。墳墓造営集団にみる非連続性と築造時期の断絶があり
ながらも,四隅突出型墳丘墓を前期大型方墳として復古再生した背景には,地域における造墓集団の正統性を墳墓築造によって表示する意図があったと考える。
そこには古墳時代前期の墳墓築造にみる地域的な選択の強さとその背景にある具体的な事情はもちろん,大型墳墓築造がもつ社会的意義が映し出されていると考
える。
キーワード 弥生時代,古墳時代,四隅突出型墳丘墓,方墳,出雲,復古再生
- 近畿地方出土鉄鉾の基礎的研究―古墳時代中期を中心として―
- 富山直人
要旨
鉄鉾の研究は,これまで,全国的な編年案の提示に留まり,地域ごとの詳細な研究はまだ十分とはいえない状況にある。本論では,鉄鉾の殺傷機能の変化に注目
しながら,型式変化を中心に分類を試みた。その結果,「斬り裂く」機能の減退による「突き刺す」機能への特化が認められた。また,出土状況から鉾の厚手化
と共に槍との区別が起きていることを確認した。さらに,鉄鉾の機能変化は,鉄鏃の長身化と一致するものであり,「武器の殺傷機能の顕在化」の範疇として捉
える事項と認識した。この顕在化に伴う変化は古墳時代中期における戦闘形態の変化を探る上で,重要な視座を示すものと結論付けた。
キーワード 古墳時代,山形抉,菱関,袋部断面,鉾の厚手化
- グスク時代琉球列島の土器
- 新里亮人
要旨
グスク時代(古代末~中世並行期)の琉球列島で製作された土器には,煮沸具(鍋形,甕形,羽釜形),貯蔵具(壷形,甕形),供膳具(碗形,坏形)があり,
九州産滑石製石鍋や中国陶磁器を祖形とした種類も一定量製作される。その大半を占める鍋形土器の型式学的検討を基に,各諸島における器種構成の変遷を検討
した結果,型式変化の方向や器種構成が各諸島で異なり,時期を追うごとに多様な様相を示すことが明らかとなった。特に,13世紀後半頃を境として沖縄諸島
で碗と坏が安定的に製作される傾向をつかめたが,この時期は中国陶磁器の供膳具が増加する時期に当たることから,沖縄諸島の土製供膳具は中国陶磁器の不足
を補う補完財というよりはむしろ,グスク(城塞)の構築に代表される社会の複雑化と不可分の関係をもつ象徴的な器物であったと考えられ,沖縄諸島では他地
域と比して社会の複雑化が進行していた可能性を指摘した。
キーワード 琉球列島,グスク時代,土器,滑石製石鍋,中国陶磁器
研究ノート
- 西北九州型片刃石斧の再検討―福岡県久留米市野口遺跡出土石斧の意義―
- 水ノ江和同
要旨
縄文時代前期(約6,000年前)の九州には,西北九州を中心に濃緑色の蛇紋岩を素材とした扁平片刃石斧が存在する。それはおもに中型・小型・ノミ型の3
類型からなり,基端部も含めた全面が丁寧に研磨され視覚的に美しい。筆者はかつてこれらを「西北九州型片刃石斧」と命名してその性格づけをおこなった。今
回,福岡県久留米市野口遺跡の西北九州型片刃石斧と,近年増加した関係資料を通じて,柄との装着方法やそれが西北九州で製作され九州各地に搬出されたこと
を明らかにした。これにより,磨製石斧が有する考古学的意義について検討する。
キーワード 縄文時代前期,西北九州型片刃石斧,蛇紋岩,野口遺跡
- 獣骨と人骨の焼骨共伴例
- 阿部友寿
要旨
縄文時代中期から弥生時代前半における焼骨としての獣骨と人骨の共伴例からその背後にある関係性について検討する。とくに縄文時代後期中葉以降の東北地方
南部から中部高地を中心に,獣骨や人骨が焼けた状態で出土する例が増える。このなかの焼けた獣骨と人骨の共伴例に注目し,共伴にいたる過程を想定する。こ
の行為の復元から,焼獣骨との共伴がヒトの埋葬時の最終段階もしくは再葬に際して生じていると判断される。これをもとに,動物と同じ遺骸処理が施された被
葬者にその人物の特殊性を読みとり,火葬といった遺骸破壊行為に再生観との関連を予想する。
キーワード 焼獣骨,焼人骨,火葬,象徴的関係,魂の再生
書評
- 鈴木 勉著『三角縁神獣鏡・同笵(型)鏡論の向こうに』
- 村瀨 陸
新刊紹介
- 佐賀市教育委員会編『縄文の奇跡!東名遺跡―歴史をぬりかえた縄文のタイムカプセル―』
- 河合章行
- 鈴木三男著『クリの木と縄文人(ものが語る歴史 33)』
- 村上由美子
- 今尾文昭・高木博志編『世界遺産と天皇陵古墳を問う』
- 阪口英毅
考古フォーカス
- エチオピア連邦民主共和国 アクスムの記念物
- Dil Singh Basanti(上田直弥 訳)
- 秋田県大館市 片貝家ノ下遺跡の概要
- 村上義直(秋田県埋蔵文化財センター)
例会レポート
全国委員つうしん