<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第65巻 第2号(通巻258号)
2018年9月
展望
- 治安維持法下の考古学-時代に抗した若き研究者たち-
- 菊池誠一
- 今回の文化財保護法の改正と課題
- 杉本 宏
- 「綏靖天皇陵」の立入り観察
- 北山峰生
- 佐紀陵山古墳西渡土堤の立会調査の見学
- 清野孝之
- 岡山県における2018年7月の豪雨による文化財被害-倉敷市真備町を中心に-
- 澤田秀実
考古学研究会第64回総会講演
- モ
ニュメントは権力の象徴なのか-南米アンデス文明の事例を中心に-
- 関 雄二
要旨
本論では,南米で成立したアンデス文明における形成期(B.C.
3000~紀元前後)を対象に,権力生成のメカニズムを多角的に論じていく。そこでは,日本調査団が公共建造物の建設や更新こそが社会変化の源泉であるこ
とを提示した「神殿更新」説をはじめとして,権力の基盤を経済,戦争,イデオロギーの3資源に分け,三すくみの相関関係をとらえて比較していく分析方法,
さらにはイデオロギー面を実践論的に分析する手法を紹介する。結論としては,権力の生成には地域的多様性があり,その背景には,奢侈品の流通,金属器の生
産,そして社会的記憶の操作など,各地域のリーダーの戦略が控えていることを示す。
キーワード アンデス文明,形成期,権力,神殿更新,社会的記憶
考古学研究会第64回総会事例報告
- ハ
ワイ・ポリネシアの首長制社会とコスモヴィジョン
- 後藤 明
要旨
ポリネシア地域は人類学・考古学における社会進化や国家発生論の主要研究領域のひとつであった。とくにポリネシア型首長制社会の極致であるハワイ王国は初
期国家発生のモデルとして多くの研究者が注目してきた。本稿ではハワイ諸島の自然環境や生業システムと民族誌データに基づき社会・政治構造との関係を概観
したあと,神殿遺跡の分布に見る二重構造,すなわち生産的な側面と軍事的な側面の共存を示す。さらに新年の祭りであるマカヒキにおける祭祀と戦争の関係を
分析したあと,高度に発達したハワイ王国の社会政治構造を宇宙論的に支える,「宇宙と社会が統一体である」との認識であるコスモヴィジョン
(cosmovision)を明らかにしたい。
キーワード ポリネシア,ハワイ,祭祀,戦争,神殿
考古学研究会第64回総会研究集会報告(上)
- 日
本における鉄製武器の生産・流通と国家権力の形成
- 豊島直博
要旨
本論文では,弥生~飛鳥時代における鉄製武器の生産と流通を検討し,古墳時代前期(3世紀後半)と飛鳥時代後半(7世紀後半)に画期を見いだした。最初の
画期は,刀剣類の器種構成や装具に地域性が見られる段階から,刀剣類が画一化し,畿内に分布の中心が生まれる段階である。背景として,倭国大乱による鉄器
流通の混乱が収束し,大和政権が武器を威信財として各地に配布したと考えた。
また,墳丘をもたない墓に武器が副葬される事例や,畿内豪族の本拠地における武器生産に注目し,古墳時代中期(5世紀)には豪族が個別に軍隊を組織する
状況を復元した。さらに,古墳時代後期(6世紀)には装飾付大刀の生産が始まる。蘇我氏は双龍環頭大刀,物部氏は頭椎大刀を生産し,各地に配布することに
より,地域支配を進めた。
こうした状況は大化の改新まで続くが,蘇我氏の滅亡を経て大王家は武器の生産体制を強化した。7世紀第Ⅲ四半期には国営の武器生産工房と管理体制が成立
し,国家の完成に至る。その背景は,百済救援戦争で唐と新羅に敗れ,軍事体制の転換を迫られたことにあると考えた。
キーワード 鉄製武器,威信財,軍事組織,初期国家,装飾付大刀
論文
- 弥
生時代の計量技術-畿内の天秤権-
- 中尾智行
要旨
亀井遺跡での「弥生分銅」発見以降に確認された畿内の石製分銅(天秤権)について,未報告の新出資料も含めて分析・検討した。出土地域は河内・和泉・大和
の三地域におよび,その時期は弥生時代中期後半から後期前半に集中する。基準質量や形態的特徴を同じくする天秤権が地域を越えて出土する事実は,畿内の弥
生社会における計量技術の高度な共有を示す。本稿では,確実な天秤権である亀井遺跡資料群から算出される8.67gを最小基準質量として天秤権の認定と分
析・検討を進めた。また,質量の大きな天秤権ほど,想定質量との質量差が段階的に拡大することを明らかにし,精度が異なる複数の秤の存在と使い分けを推定
した。
キーワード 弥生時代,計量技術,権衡資料,分銅,基準質量
- 二
軒在家原田頭遺跡と群馬県西部の弥生中期土器編年
- 馬場伸一郎
要旨
弥生中期中頃から後半の集落遺跡である群馬県安中市の二軒在家原田頭遺跡では,栗林式・小松式・在地型式の3系統の土器が出土した。栗林1式を主体とする
土器が多数を占め,「竜見町式」以前の段階と様相を明確にできる土器群である。本遺跡は,信州の千曲川流域に分布する栗林1式土器の範囲拡大により成立し
た遺跡で,後続する群馬県西部の栗林式諸段階と浜尻式への起点ともなった。また,栗林1式土器の分布拡大と小松式土器が関与した広域の相互交流を経つつ,
群馬県西部の地域社会が変化していく過程を論じ,本遺跡が北陸-信州-埼玉県北西部という広域の相互交流を理解する上で重要な遺跡であることを指摘した。
斧形に代表される石製模造品全体の変化は,農工具形石製模造品のセット関係の変化,そして,刀子形を中心とする多量埋納への変化に連動するものであった
可能性を指摘した。
キーワード 弥生中期,群馬県西部,小松式,栗林式,竜見町式
研究ノート
- 現
代沖縄における野営炉址の調査-炉址研究の参照枠充実に向けた基礎作業-
- 山崎真治
要旨 先史時代の炉址とそれを利用した人類活動を解釈するための基
礎作業として,現代の沖縄の海浜部に見られる野営炉址の調査を行った。調査地は沖縄島北部東海岸の2地区(U地区,I地区)で,特定の範囲内に残された炉
址について,形態,平面規模,炉址内外に残された物品について調査し,一部については炉内部の断面調査も実施した。その結果,U地区の炉址には強固な構造
をもち,反復的な利用をうかがわせるものが多く見られ,逆にI地区の炉址には一度きりの便宜的な使用に供されたと考えられるものが多く見られた。こうした
差異は,両地区の炉址を残した個人あるいは集団の炉をめぐる行動様式や,炉の構築や扱いに関する文化的背景が異なっていたことを示唆している。
キーワード 現代,沖縄,キャンプ,炉址,民族考古学
書評
- 原田幹著『東アジアにおける石製農具の使用痕研究』
- 槙林啓介
- 拙著『津波災害痕跡の考古学的研究』への別所秀高氏の書評について
- 斎野裕彦
新刊紹介
- 張慶姫著,池貞姫・村上和弘・松永悦枝訳『北朝鮮の博物館』
- 西谷 正
考古フォーカス
- 熊本県水俣市 北園上野古墳群の概要
- 熊本県教育庁教育総務局文化課
- 岡山県岡山市 津倉古墳
- 岡山大学考古学研究室
被災された会員へのお知らせ
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