<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第65巻 第3号(通巻259号)
2018年12月
展望
- カザフスタンとキルギズスタンの世界遺産「シルクロード:長安―天山回廊の交易路網」―アジア初「国境を越える文化遺産
- 坂井 隆
- ギリシャの水中文化遺産保護
- 中西裕見子・片桐千亜紀・Angeliki G. Simosi・Panagiota Galiatsatou・Anastasia Mitsopoulou・Ilias Kouvelas・Kostas Kaldis
- デンマーク・オーフス大学で開催されたシンポジウム「大災害の諸相―考古学的な視点から―」参加記
- 斎野裕彦
- 木幡古墳群23号支群(宇治陵23号地)の立会調査見学
- 桐井理揮
考古学研究会第64回総会研究集会報告(下)
- 狩猟採集社会における戦争―集団間の暴力を促進/抑制する要因について考える―
- 松本直子
要旨
本報告では,戦争の起源や要因をめぐる錯綜した研究状況を整理し,考古学的に確認される事象を踏まえて,戦争を促進する要因,抑制する要因について検討する。戦争は,偏狭な利他主義,集団ないしリーダーへの忠誠,権威に対する従順さといった道徳的規範を土台として展開する社会行動である。暴力的な攻撃は人間以外の動物にも広く見られるが,戦争をするのが人間だけなのは,人間だけが道徳を持つからである。戦争の起源は人類史の初源に遡るとする説が台頭しているが,体系的な受傷人骨データを見ると先史時代の狩猟採集社会で戦争が頻発していたとは考えられない。狩猟採集社会においては,平等主義,分配の重視,自主性の尊重,そして血縁関係を超えた相互扶助や寛大さの尊重という道徳的規範が,それを共有する人々の相互監視と評判の力によって保持されており,それに基づく文化的システムが権力の集中化と集団間の暴力を抑制する。こうした文化的・認知的傾向は,親族関係を超えて平和的な関係を取り結ぶことが適応的であったために,先史時代の遊動的狩猟採集社会において進化したと考えられる。
キーワード 戦争の起源,平等主義,権力,偏狭な利他性,ジェンダー
- 古代寺院と国家と地域社会
- 梶原義実
要旨
本論では,古代地方寺院の選地および瓦当文様の観点から,王権・国家と地域社会それぞれの寺院造営への関与のあり方を論じた。
7世紀中葉頃,地方豪族が中央氏族との個別的な繋がりで造寺技術の導入を図り,その際に居宅と寺院のセット関係が情報として継承された。その後,地方寺院の造営が活発化するが,多様な選地をとるこれらの寺院は,伝統的自然信仰や祖先信仰,経済的権益など,地域の思惑と結びつき進められた。郡家隣接寺院については,公的権力によって画一的に造営されたものではなく,郡を媒介とした知識結集により造営された。
瓦当文様の分布から造営背景を考える諸研究については,中央官寺・宮都同笵瓦の波及には王権・国家の特別な意図を見いだせるものの,圧倒的多数を示す同文関係については,造瓦技術が地縁的紐帯のもとで波及していく様子を示すに過ぎないと考えた。
キーワード 古代寺院,選地,景観,地域社会,瓦当文様
論文
- 日本諸島における弥生時代
- 河村好光
要旨
日本諸島の前近代の時代は,北の民,中の民,南の民,それぞれによる文化と社会とが併存していた。筆者は,近代に成立した日本人観を基準に過去をみるのではなく,近代以前の日本諸島各地,各民の多様な営みをその歩みに即して評価していきたいと考えている。本論は,弥生時代を,前近代国家の時代と対置させ,「本州諸島において,生業,生活・文化の大陸化がはじまり,食料生産を基礎とする社会に移っていく時代」と定義する。縄文時代から弥生時代への移行を検討した結果,本州諸島東半部の弥生時代移行が同時代中期中葉に降るというような著しい時間差がないことを確認した。また,中の民の輪郭形成が弥生時代中期以降に起こることが想定できた。
キーワード 弥生時代,中の民,大陸化,ヒスイ,境界
- 沖縄本島におけるグスク時代の階層化
- 瀬戸哲也
要旨
グスク時代は,階層社会と捉えられることが多いが,沖縄本島においてその前半期である11世紀後半~13世紀代の階層差は緩やかであり,顕著な階層化は14世紀代後半以降に進行したことを次の3点より指摘した。第1に,陶磁交易において,14世紀後半以降に量的な増大と優品が搬入されるなど急激な変化があった。第2に,11世紀後半前後の開始期集落には陶磁器などの出土量に多寡はあるが,建物の規模・配置に反映されておらず,交易型と開拓型という性格の違いと考えられる。第3に,外周を巡る城壁・礎石建物などが整備される城塞化以前である12~13世紀代のグスクは,各地域の拠点的な性格を有していたが,城塞化以後に比べると卓越した有力者の登場には至っていないことを想定した。
キーワード グスク時代,階層化,陶磁交易,開始期集落,沖縄本島
研究ノート
- 石川県小松市八日市地方遺跡出土の層灰岩製片刃石斧と三面石斧をめぐって
- 佐藤由紀男・宮田 明
要旨 八日市地方遺跡の河道下層は弥生時代前期後葉から中期初頭の堆積層であり,そこから九州北部を中心に分布する層灰岩製片刃石斧と,北海道を中心に分布する三面石斧が出土している。その背景を探るために九州北部及び山陰から近畿北部出土の層灰岩製片刃石斧と,北海道及び東北北部の日本海側出土の三面石斧を含む北海道系磨製石斧の様相を検討した。その結果,八日市地方遺跡の層灰岩製片刃石斧は九州北部から,三面石斧は東北北部からの直接的な搬入品である蓋然性が高いと判断された。そして搬入の背景としては,これらの石斧が舟運の船の装備品であった蓋然性が高いと考えた。
キーワード 交易,舟運,九州北部,東北北部,北海道系磨製石斧
書評
- 森 貴教著『石器の生産・消費からみた弥生社会』
- 寺前直人
新刊紹介
- 久末弥生著『考古学のための法律』
- 十菱駿武
- 日下宗一郎著『古人骨を測る―同位体人類学序説―』
- 橋本裕子
- 上峯篤史著『縄文石器―その視角と方法―』
- 藤山龍造
- 辻尾榮市著『舟船考古学』
- 冨加見泰彦
考古フォーカス
- 石川県加賀市 八日市遺跡の発掘調査
- (公財)石川県埋蔵文化財センター 中屋克彦
- コトシュ遺跡とハンカオ遺跡 ―ペルー考古学の光と影―
- 鶴見英成
委員会つうしん・全国委員つうしん・会員つうしん