<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第66巻 第3号(通巻263号)
2019年12月
展望
- ベトナムのタンロン皇城遺跡と新国会議事堂地下博物館
- 菊池誠一
- 日本と海外における水中遺跡保護の取組みの現状
- 清野孝之・佐々木蘭貞・藤井幸司
- 国宝高松塚古墳壁画修理作業室の第4回専門家特別公開参加記
- 肥後弘幸・冨井 眞
- 百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産登録決定に関する見解について
- 企画委員会
- あいちトリエンナーレ事件と考古学研究
- 常任委員会
考古学研究会第65回総会講演
- 縄文時代の土器生産と権威の発生―氏族社会の民族誌から見た土器型式の成立と流通―
- 高橋龍三郎
要旨 縄文土器型式が一定の地理的範囲に分布し,時間の遷移に伴い変化することは現象的に把握できても,その原因を解明するに至っていない。筆者らはパプアニューギニアの民族誌調査を実施する中で,型式の成立に親族,出自,婚姻,居住規定などの社会的要因が関わること,また型式変化を主導する一人の製作者がいるらしいことを突き止めた。その製作者がイニシアティブを発揮する背景に,精神世界との強い関わりがあること,土器製作そのものに呪術世界を生み出すロジックがあることを解明した。主要な土器製作者がそれを権威とし「同業者中の第一人者」としてメラネシアの位階制(グレートマン制)に並ぶことを推定した。未開社会の土器は市場システムではなく,親族構造の網の目を通じて流通する。
キーワード 土器型式,親族構造,精神世界,ブウェブウェソ山信仰,立石
考古学研究会第65回総会研究集会報告(中)
- 埴輪の生産・流通からみた古墳時代の権力生成
- 廣瀬 覚
要旨 本来,古墳を儀礼空間へと仕立てるための一作業であった埴輪生産は,古墳祭祀の肥大化にともなって専業化を遂げ,古墳時代中期には,古墳群単位で一元的供給をおこなう集約的な生産体制が一時的に出現する。王権と地域の間では,上番・帰郷型の工人移動が展開しており,そうした直接的な関係のもと,王陵を頂点とする墳丘・埴輪の序列表象が展開し,中期中葉には王陵級とそれ以外の古墳との格差が一層顕在化する。
一方,後期には中期の生産体制が解体し,各地で埴輪生産が多元化する。従来,その背景に,地域首長や工人の自立化が読み取られてきたが,むしろこの時期に,円筒埴輪の段構成による階層序列がより緻密化し,かつ生産地や系統を超えて秩序が共有される現象が認められることからも,後期の王権は,生産行為そのものは地方に裁量を委ねつつ,段構成や配列などへの間接的な規制を通じて,階層秩序を形成していったものと考えられる。
ここでは,以上のような中・後期の埴輪生産にみる権力関係の相違を,直接掌握型と間接規制型という2つのモデルとして対比的に捉え,後者の方がより高度な政治秩序下における権力行使のあり方として理解できることを示した。
キーワード 埴輪生産,流通,生産組織,工人移動,序列化
- 総括討議
論文
- 古墳年代からみた日韓出土方格T字鏡十二支帯鏡群の型式学
- 徳富孔一
要旨 本稿では,1990年代に提示された方格T字鏡の型式学的研究を再検討し,方格T字鏡のうち,十二支帯鏡群の出土遺構時期を踏まえた型式学的組列の確認を行った。その結果,従来安易に考えられていた面径の小型化がスムーズに進行した様相を示さず,複雑な変遷を辿っていることが分かった。そして,そのような変遷の中に,古墳時代中期を前後する3つの文様変換点を見出すことができ,それは1990年代後半以降考えられた方格T字鏡西晋・晋鏡説では説明ができず,舶載鏡説を採るならば南北朝期までの継続的舶載を,日本列島製説を採るならば日本列島での型式変化を説明する必要性が出てきた。さらに,それらの年代に合わせた製作の背景を検討した結果,方格T字鏡十二支帯鏡群は領域的に限られた場所で作鏡されていることを明らかにした。
キーワード 方格T字鏡十二支帯鏡群,古墳時代,型式学,年代学,作鏡
- 古墳時代石杵・石臼の成立からみた水銀朱使用の画期とその背景
- 石井智大
要旨 本稿では,古墳時代前期における水銀朱使用の変化とその背景について考えるために,水銀朱磨り潰しに用いられた石杵・石臼の中でも古墳時代に出現する精美に整形されたものに注目し,その成立過程について検討した。その結果,これらの石杵・石臼は,弥生時代後期以来の石杵・石臼を基に,その機能性を誇張表現し形態を整えて儀礼用具としての性格を強めることにより,古墳時代前期前葉に成立したことを明らかにした。そして,それは儀礼に際しての水銀朱使用の変化を反映したもので,背景には当該期における初期ヤマト政権を中心とした,東海地方西部などの地域集団との関係の強化・再編を目的とした儀礼様式の整備があったと考えた。
キーワード 水銀朱,儀礼,石杵,石臼,古墳時代前期
研究ノート
- 長原タイプ土偶の系譜―近畿地方における縄文時代終末期の土偶―
- 金子昭彦
要旨 近畿地方の縄文時代終末期に分布する「長原タイプ土偶」については,寺前直人氏の東北地方の屈折像土偶起源説がある。本稿では,氏の説を批判し,併せて対案を示す。寺前説の最大の問題点は,長原タイプ土偶の出現前夜の近畿地方に,東北地方の屈折像土偶が搬入品も模倣品も全く見られないことである。この時期の東北地方の屈折像土偶の特徴であるパンツ状表現も見られず,装飾(人体表現)は,近畿地方の晩期前葉土偶の系譜を引く可能性が高く,その特徴的な形も,この地域の遮光器系土偶に起因すると考えた。
キーワード 縄文時代終末期,近畿地方,長原タイプ土偶,屈折像土偶
書評
新刊紹介
- 山﨑 健著『農耕開始期の動物考古学』
- 丸山真史
- 吉村武彦・吉川真司・川尻秋生編『前方後円墳 巨大古墳はなぜ造られたか』
- 岩本 崇
考古フォーカス
- 兵庫県赤穂市 放亀山1号墳の調査
- 赤穂市教育委員会
- 京都市 六勝寺跡(延勝寺跡)・白河街区跡の発掘調査
- 伊藤淳史・冨井 眞
会員つうしん