目次
第68巻 第3号(通巻271号)
2021年12月
展望
- 「旧海軍大社基地遺跡群」(島根県出雲市)の保存について
- 出原恵三
- 【連載】東日本大震災から10年 私たちは変わったのか⑶
- 文化財レスキューの現状と今後の展望
- 高妻洋成
- 「古文書・記録資料」は守られるのか―宮城でのレスキュー活動経験から考える―
- 佐藤大介
- 「起きてから縄をなう」ままでいいのか―東日本大震災復興調査での技術利用とその課題―
- 金田明大
- 歴史災害痕跡データベースの構築とその有効性
- 村田泰輔
- 連載を振り返って
- 岡村勝行
考古学研究会第67回総会講演
- 資源・水利・農業と政治統合―中国・良渚文化の事例から―
- 中村慎一
要旨 良渚文化の標式遺跡である浙江省良渚遺跡群は紀元前3千年紀前半において世界最大の都市であった。そこにはコメをはじめとしてさまざまな資源が各地から集められた。また,環濠や運河に打ち捨てられた散乱人骨の考古科学的分析により,遠隔地からの移入者が存在していたことも判明した。こうした事実から,都市としての良渚遺跡群はヒトとモノを集める装置として機能したと考えられる。それを可能にしたのが新宗教の創始であった。玉器に刻まれる「神人獣面紋」は神の姿を写したものであり,ミランダとして機能した。その背後には,クレデンダとしての支配の正当性を納得させる神話が存在した。その両者の創出により良渚王権は政治統合を達成した。
キーワード 良渚遺跡群,都市化,宮殿,大規模水利施設,農業集約化
考古学研究会第67回総会・研究集会報告(中)
- 狩猟採集社会における有力者の権能―北海道島の事例―
- 高瀬克範
要旨 海産物に高く依存する経済が少なくとも過去7千年間にわたって展開した北海道島を対象として,縄文・続縄文文化の有力者の人物像,制御されていた社会領域,権力の源に海洋資源の捕獲活動が関係していたのか否か,といった問題を検討した。その結果,縄文文化の最有力者は儀礼の執行者ではあったが猟師・漁師ではなく,儀礼以外の領域を制御することで自身に利益を誘導したり,共同体内の他者の行動を強く拘束したりする傾向はみられなかった。対照的に,続縄文前期には狩猟や漁労をめぐる競争的関係を勝ち抜いた猟師・漁師が最有力者となり,その人物が儀礼,長距離交易,輸出品の生産など幅広い領域を制御するようになったとの結論をえた。
キーワード 縄文文化,続縄文文化,資源利用,有力者
- 水利開発と地域権力―5~7世紀の出雲を素材として―
- 池淵俊一
要旨 本稿では,考古資料を中心に文献史料や歴史地理学的知見を援用し,5~7世紀における出雲の水利開発の具体像を明らかにするとともに,水辺の祭祀遺跡の分析を通じて水利開発が如何なる権力構造のもとで行われたかを検討した。その結果,当地の水利開発が重層的な権力構造のもとで行われ,在地首長主導の開発の場合でも倭王権が一定の関与を行うことで王権への帰属意識が形成されたこと,特に在地社会の再開発過程を通じ王権が地方支配を進展させていった可能性を論じた。ただし5世紀と6・7世紀との開発とでは,王権の関与の違いなどから,地域社会の王権に対する帰属意識は大きく異なる。このような古墳時代の各段階における重層的な土地開発の歴史が,ミヤケ制や国造制など,多様な地方支配制度が生み出された背景にあったと考えられる。
キーワード 水利開発,倭王権,在地首長,加功主義,再開発
論文
- 有鉤銅釧生産の展開
- 菊池 望
要旨 有鉤銅釧は,貝輪を祖型として九州地方北部において成立した,環部に鉤状突起を有する銅釧である。日本列島の広域に分布する有鉤銅釧は,弥生時代における小型青銅器生産の展開を検討することができる重要な研究対象の一つといえる。本研究では,製作技術の伝播過程や地域性発現の仕組みを解明することを目的とし,有鉤銅釧を型式分類し,諸型式の変遷や系譜関係を検討した。本研究の分析からは,有鉤銅釧の展開の背景には模倣的生産や遠隔地域間の技術伝播があったことが明らかになった。また,有鉤銅釧の広域展開は,当該期における日本列島の青銅器生産が有していた多様な製作動向が連関しあうことで達成された可能性を予察した。
キーワード 弥生時代,銅釧,製作技術,技術伝播,地域性
- 山陰地域における古墳出現期土器の編年と製作技術
- 式田 洸
要旨 本論文では,山陰地域における古墳出現期の土器編年を行い,製作技術の変容過程を追究した。編年の結果,山陰プレⅠ期~山陰Ⅶ期の8時期に細分を行った。製作技術の検討からは,山陰Ⅰ期を移行期として弥生時代後期的な製作技術から古墳時代前期的な製作技術へ変容することを明らかにした。古墳時代前期的な製作技術は弥生時代後期的な製作技術を基盤とし,いくつかの製作技法を取り入れて成立したが,その際吉備南部地域からの影響があった可能性を指摘した。また,製作技術という観点からは畿内地域からの影響は限定的で,古墳時代前期的な製作技術をほぼ変化させずに,山陰Ⅰ期以降山陰Ⅶ期まで土器製作が続けられたと結論付けた。
キーワード 古墳出現期,山陰地域,土器,編年,製作技術
書評
- 加藤一郎 著『倭王権の考古学―古墳出土品にみる社会変化―』
- 林 正憲
- ルイス R. ビンフォード 著,植木武(訳者代表)『過去を探求する―考古資料解読の方法と実践―』
- 小野 昭
新刊紹介
- 鶴見泰寿 著『東大寺の考古学―よみがえる天平の大伽藍―』
- 中川二美
- 今里幾次 著,春成秀爾 編『播磨古瓦の研究 第二』
- 森岡秀人
考古フォーカス
- 京都府城陽市 小樋尻遺跡の発掘調査
- 京都府埋蔵文化財調査研究センター
- 石川県野々市市 国史跡末松廃寺跡の調査
- 野々市市教育委員会
委員会つうしん
会員つうしん