<考古学研究会事務局>
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会誌『考古学研究』
目次
第70巻 第3号(通巻279号)
2023年12月
展望
- イスラエル・ガザ戦争における軍事行動に対して
- 常任委員会
- 大きな戦争下の小さな博物館―ウクライナ・ハルキウからのメッセージ―
- イリナ・シュラムコ,スタニスラフ・ザドニコフ(村上恭通 訳)
- 自治体外郭団体への埋蔵文化財調査依存の諸問題と今後の見通し―大阪府下を中心に―
- 一瀬和夫・黒須亜希子
考古学研究会第69回総会・研究集会講演
- 弥生時代における広域分布土器型式の形成と展開
- 石川日出志
要旨 縄文・弥生時代研究では多数の土器型式(様式)が設定され,各種文化事象を検討する際の相対的年代基準となるとともに,文化の地域性を検討する糸口ともなっている。しかし,弥生時代の土器型式の形成と展開を見た時,縄文土器の場合とかなり異なる現象が認められる。複数の土器型式が混淆・融合して新たな土器型式が狭い地域で形成され,そのあと分布範囲を一気に拡大する現象である。これをここでは広域分布土器型式と呼ぶ。その典型例として,弥生時代中期・中央高地の栗林式,北陸の小松式,弥生時代前期・西日本の遠賀川式の三つの土器型式を取り上げて,その具体像を確認する。そのような現象が生じるのはなぜか。この三型式の分布拡大には,本格的灌漑稲作,集住・環濠集落と拠点性,新しい墓制,特産品(とその流通)が共通して伴う。混淆・融合によって新たに形成された土器型式は,これら諸文化要素とともに文化・社会システムを構成するパッケージとして分布の拡大が起きたと考える。
キーワード 弥生時代,土器型式,分布,灌漑稲作,文化・社会システム
考古学研究会第69回総会・研究集会報告(下)
- 細石刃石器群にみる広域分布現象とその背景―古本州島を事例として―
- 髙倉 純
要旨 古本州島で細石刃石器群が出現した段階を題材に,日常生活の活動領域や石材の獲得活動範囲を超えた階層での分布現象が考古資料からどのように読み取れうるのかを議論した。古本州島で細石刃石器群が出現する以前に,周辺の中国北部・韓半島・古北海道半島では押圧剥離法による細石刃生産の技術が創発され,その技術情報が21cal. ka以降になって伝播してきたとみられる。古本州島の細石刃石器群は,人口が縮小していたと推定される時期に出現しており,それが断続的・間欠的な遺跡分布に反映されていた可能性がある。細石刃技術や石器型式組成には,狭域分布と広域分布という重層的な分布現象が確認できた。押圧剥離法による細石刃生産や細石刃剥離工程における技術の互換性が広域に共有されていた背景を理解するためには,石器製作者の接触・共在と情報の伝達との関係性に着目することの重要性を指摘した。
キーワード 細石刃,広域分布現象,押圧剥離法,文化伝達,古本州島
- 古墳時代須恵器の分布過程と型式変化の連動性
- 松永悦枝
要旨 本稿は,古墳時代における須恵器を特徴づける広域分布,型式の斉一性,形態や器種組成の連動性について,陶邑窯と地方窯の器種組成の比較と消長,消費遺跡である集落と古墳における組成の変化に着目し,検討を行った。初期地方窯の消長および集落・古墳双方の使用器種組成からは,地方窯では生産の低調な蓋坏の使用増加が契機となり,初期地方窯須恵器から陶邑窯須恵器へ転換することを指摘した。また,朝鮮三国時代の墳墓資料との比較をとおして,蓋坏と高坏という基本的組み合わせを列島的な葬送器種と位置づけ,古墳での使用と集落での蓋坏の需要の高まりが,須恵器の広域分布と型式の連動の背景となったと考えた。
キーワード 須恵器,陶邑窯,初期地方窯,蓋坏,古墳葬送器種
論文
- 陵墓制札の変遷とその意義
- 辰巳俊輔
要旨 陵墓の拝所付近に設置されている制札について,その初現である江戸時代から現代に至るまでの文言,形状,設置位置の変遷を各種史料に基づき検討した。その結果,江戸時代以前と明治時代以降とでは全く異なる様相であることが判明し,その背景として,江戸時代以前は周知の対象が地域住民であったものが,明治時代以降は国内外からの来訪者に変化したことに起因することを指摘した。制札は明治政府が統治の根幹的概念である万世一系を視覚的に示す構造物として設置され,陵墓の荘厳化にも寄与したものであると論じた。
キーワード 陵墓,制札,天皇,修陵,万世一系
研究ノート
- 東京都なすな原遺跡出土の屈折像土偶―屈折像土偶の時空的分布から位置づける―
- 金子昭彦
要旨 東京都なすな原遺跡出土の屈折像土偶の時期は,鈴木正博氏によって安行3c式期と位置づけられて以来,そのまま踏襲されてきた。しかし,なすな原遺跡例の出土状況は,時期同定の根拠になり得るようなものではない。東北地方起源の屈折像土偶は三種類あり,特徴および時空的分布が異なっている。東北地方南部以西の分布を検討した結果,関東地方以西に分布するのは,後期前葉~晩期初頭に存在する屈折像A類土偶のみであり,また,晩期中葉に存在する屈折像B類土偶は,安行3c式期まで遡らないので,なすな原遺跡例は当該期とはなり得ず,似ているものを探せば後期後葉の可能性がある。
キーワード 縄文時代後晩期,関東地方,屈折像土偶,時空的分布
書評
- 白石典之 著『モンゴル考古学概説』
- 三宅俊彦
- クリス・ゴスデン 著(松田和也 訳)『魔術の歴史―氷河期から現在まで―』
- 石村 智
考古フォーカス
- カンボジア・シェムリアップ州 西トップ遺跡
- 佐藤由似
- 京都府京都市 淀水垂大下津町遺跡の調査
- (公財)京都市埋蔵文化財研究所
委員会つうしん
- 考古学研究会の財政状況への対応案について
- 常任委員会
- 『考古学研究会70周年記念誌 考古学の輪郭』の刊行について
- 70周年記念誌編集委員会